幼馴染は私を囲いたい!【菱水シリーズ②】

第28話 誰かを大切だと思うこと【梶井】

甘い香りが部屋に充満している。
香水をつけすぎたのだろう。
化粧をして露出の高い服を着ていた母親が鼻歌を歌っている。
機嫌のいい母親を見て俺は嫌な予感がしていた。

理滉(みちひろ)、出かけてくるわね」

「新しい恋人ができたのか?」

「んー。そーなのかなー?わかんない。恋人かどうかは付き合ってみないとね」

どうせまた、ろくでもない男なんだろう。

「母さん。本選の演奏を聴きに来てくれるって言ってたよな?」

明日はコンクールの本選だ。
俺の応援に来ると前から約束していた。
それなのに―――また息子より自分を泣かせるような男を選ぶのだろうか。

「もちろんよ。理滉は私の自慢の息子よ?菱水音大附属高校に合格して特待生なんて、みんなからすごーいって言われているんだからー」

「だったら、明日は絶対に来てくれよ」

優勝すれば高校を卒業するのと同時に海外に留学することになる。
そうなったら、一緒に暮らすこともできなくなる。

「もおー。わかったわよ」

母はうるさいわねぇと俺を横目で見て不機嫌な顔をした。
俺は今まで我儘らしい我儘を言わなかったはずだ。
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