幼馴染は私を囲いたい!【菱水シリーズ②】

第35話 恋はここまで【梶井】

野外ステージでプレリュードを披露し、恩師と語らった後、別れを告げた。
その時には大騒ぎしていたあの生意気な奴らはいなくなっていた。

「最後のお願いだったんだけどな……」

あっさり断られてしまった。
彼女が俺を選ばないことはわかっていた。
ライトアップされた公園は後片付けが終わって誰もいない。
今は暗い。
煙草の火だけが暗闇の中ぼんやりと灯っていた。
東屋のベンチに腰かけて、星の見えない空を見上げていた。
じゃりっと小石を踏む音に気づき、目を向けるとそこにはグレーのスーツにひっつめ髪の渡瀬(わたせ)がいた。

「王子にお姫様を奪われてしまいましたね」

「……渡瀬」

なんて顔してるんだ。
それは今までで一番感情をむき出しにした顔だった。
あのビジネスライクな渡瀬が―――

「恥ずかしい真似をしないでください!」

初めて渡瀬が俺を本気で怒鳴りつけた。
腹の底から怒っている。
それも感情を露わにして拳を握りしめていた。
拳で殴る気かよ。
さすがに俺は避けるぞ。
今まで女に平手で殴られたことはあっても拳はない。

「それは否定しない。ものの見事にフラれたからな」
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