未亡人ママはスパダリ義兄の本気の愛に気付かない
未亡人ママの朝
ベランダの手すりに止まったスズメが、チュンチュンと軽やかに鳴いていた。
『イエローバードマンション303号』の朝はいつも忙しなく過ぎていく。
「翔ちゃん。早くご飯食べちゃいなさい。まだプチトマトが残ってるよ。」
久我山椿は、5歳になる息子の翔真が、フォークで皿の上のプチトマトを転がしながら遊んでいるのを見て、そう声を掛けた。
「僕、プチトマト嫌い。美味しくない。」
翔真はそうつぶやき、口を尖らせる。
椿は身体を屈んで翔真に目線を合わせ、いつものように言い聞かせた。
「トマトにはね、リコピンっていうすごく身体にいい栄養が入ってるんだよ?トマトだけじゃない、野菜やお肉、キノコ、色んな食べ物を食べることが大事なの。わかった?」
「・・・うん。」
「ママ、翔真にはずっと元気でいて欲しいんだ。」
「・・・うん。」
「プチトマトさんが泣いてるよ?翔真くーん。ボクを食べてーって。」
「ママ、あのさ。」
翔真が冷めた目付きで椿を見た。
「僕、もう赤ちゃんじゃないんだよね。そういうのいいから。」
「・・・そっか!そうだよね。ごめんごめん。」
椿は眉を八の字にしながら肩をすくめ、翔真に謝った。
年長さんになってからの翔真は急に大人びてきたような気がする。
椿にはそれが頼もしくもあり淋しくもある。
翔真は、仕方がなさそうに口の中にプチトマトを入れた。
翔真の顔が苦い物を食べた時のように歪む。
本当は残していいよって言ってあげたい。
でもね・・・ママ、翔ちゃんが病気になるのが怖いんだよ・・・
可哀想だとは思うけれど、これも翔真の健康の為と心を鬼にした。
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