未亡人ママはスパダリ義兄の本気の愛に気付かない

ふいに抱きしめられて


涼しい風が夏の名残の風鈴を揺らす、日曜日の朝。

一緒にスケッチをする約束をしていると言って龍の部屋へ行った翔真が、しょんぼりした様子ですぐに家へ戻って来た。

「どうしたの?あ・・・龍さん、急なお仕事が入っちゃった?そういうときは仕方がないのよ?我慢しなさい。」

しかし翔真は大きく首を振った。

「ううん。龍、苦しそうだった。ベッドでパジャマのまま横になってて・・・。翔真ごめん、今日は体調が悪いから、また今度な・・・って。」

「・・・そうなの。」

翔真にはそう軽く答えたものの、椿は龍が心配になった。

病気の方が逃げ出しそうなあの龍さんが、ベッドで寝込んでいるなんて。

大丈夫なのかしら?

疲れが溜まっているだけ?

それとも、何か大きな病気にかかってしまったの?

ふと、病院のベッドで横たわる信の姿が、椿の脳裏に浮かんだ。

龍に万が一のことがあったらと考えてしまい、椿はいてもたってもいられなくなった。

「翔ちゃん。少しだけお留守番出来る?ママ、ちょっと龍さんの様子みてくる。」

「うん。ママ、龍を助けてあげて。」

椿は玄関からマンションの廊下に出て、隣の龍の部屋のドアノブを握った。

翔真が入れたんだから、鍵はかかってないはずだけど・・・

そう思いながらドアノブを回し引っ張ると、難なくドアが開いた。

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