伯爵家を支えていたのは私なのに、浮気した元旦那様に未練があるとでも? 幼馴染の騎士と再婚しますのでお帰りください
第13話
春の光が柔らかく降り注ぎ、結婚式の続きを迎えた会場には、穏やかで温かな空気が満ちていた。
白い花びらが風に舞い、木漏れ日がきらめき、招待客たちの笑顔があちこちに咲いている。
祝福の言葉が飛び交い、グラスの触れ合う音や笑い声が優しく響く中で、エリナは少しだけ震える指先を見つめていた。
心臓が早鐘を打ち、胸の奥がじんわりと熱を帯びる。
緊張と期待、そして少しの不安が胸の中で渦を巻き、息が浅くなるのを感じた。
そんな時、そっと差し伸べられたアレクの手が目に入った。
「……エリナ、改めて言わせてくれ」
アレクの声は低く、落ち着いているようでいて、どこか熱を帯びていた。
彼の瞳は真剣で、揺るぎない決意の光を湛えていた。
エリナは思わず息を呑み、視線が重なると胸がぎゅっと締め付けられるようだった。
「これからは、君の隣に立たせてくれ」
その言葉が、まるで心に直接触れたように響いた。
エリナは目を見開き、頬がじわりと熱くなるのを感じた。思わず震える声で問い返す。
「……そんな、私なんて……本当に、いいの?」
「違う」
アレクの声が少しだけ強くなり、彼女の手を包む指に力が込められた。
その手の温もりが、冷えた心にじんわりと沁み込む。
アレクは息を吐き、改めて言葉を紡ぐ。
「君じゃなきゃ、ダメなんだ。ずっと、そう思ってた……君が誰かの隣にいるなんて、耐えられなかった。だから、今度こそ……俺の傍にいてほしい」
「アレク……」
エリナの目が潤み、涙が頬を伝いそうになり、震える声で、精一杯の想いを言葉に乗せた。
「お願いします……私も、あなたの隣で生きたい……あなたと一緒に、これからの人生を歩みたいの」
その言葉に、アレクの胸が熱く満たされ、彼女の手をそっと額に寄せた。
額に触れた指先が微かに震え、呼吸が重なるたびに心が満ちていく。
「ありがとう、エリナ……これからは、俺が守る。君が笑えるように、どんな困難も一緒に越えていく」
「私も……一緒にいるわ……もう、何も怖くない。アレクがいれば、それでいい」
花びらがふわりと舞い降り、エリナの髪にそっと触れる。
その光景がまるで夢の中のようで、アレクはその花びらをそっと指で摘み、笑みを浮かべた。
彼女の髪を優しく撫で、頬に触れ、額にそっと唇を寄せたとき、エリナが小さく笑った。
その笑顔は、泣き笑いのようで、幸せが溢れていた。
「幸せになろうね、アレク」
「……ああ、絶対に。俺が、必ず幸せにする」
誓いの言葉が春風に溶け、やがて歓声と拍手が会場を包み込んだ。
グラスが鳴り、笑い声が響き、誰もが二人を祝福している。
エリナの手を握るアレクの指は、もう離すことはないと語るようにしっかりと絡み合い、温もりを分かち合っていた。
その瞬間、二人の未来が確かに始まったのだと、誰もが感じていた。