フランス人彼氏が甘すぎて、血糖値が心配です。

彼のフランス語圧に、今日も震えてます。

「フランス語、話せるようになりたいな」

そう思いはじめたのは、いったい何年前のことでしょうか。

いつのまにか、月日だけが積み重なり──
いまだ、ほとんど話せていないのが現実です。

覚えているのは、
「こんにちは」「こんばんは」「おやすみなさい」などの基本の挨拶と、
「私は○○です」系の自己紹介、そして「これはりんごです」みたいなシンプルな文章くらい。

……どうぞ、温かい目で見守ってください。

でも、ちょっとだけ言い訳させてくださいね?

フランス語、難しすぎます。

動詞の活用は山ほどあって、
名詞や形容詞には“男性形”“女性形”の区別があって、
発音も、日本語には存在しない音ばかり。

巻き舌でも鼻からでもなくて、どこから声を出せばいいのか、いまだに迷子です。

それでも──

彼と一緒に未来を歩いていくためには、
やっぱり、避けて通れない言語。

「フランス語、勉強します……」
彼の前で、ほとんど宣言というより降伏のように告げました。

すると、彼は本当に嬉しそうで。
その笑顔を見た瞬間、「もう、逃げられないな」と、ひそかに覚悟を決めました。

そして差し出されたのが──

一冊のフランス語小説。

「私がはじめて読んだ本なんです」と、満面の笑みで。

おそるおそるページをめくってみると、
ぎっしり並んだ見知らぬ単語、途切れない文章。
分厚さもなかなかで、思わず言葉を失いました。

(……今からでも絵本に変更、できませんか?)

「簡単なフランス語だよ♪」

そう言う彼の笑顔は、まぶしいほどでした。
ええ、取りつく島もありませんでした。

泣きそうになりながら、それでも少しずつ読み進めています。

そしてある日、彼がふいに言ったのです。

「しろさんは、私と暮らしたら、フランス語を話せるようになりますよ」

──それってつまり、日常生活がフランス語モードになる、ということ?

(いえ、せめて“部分的に”ですよね?)

来年には、いよいよ同居の予定。

まさか日本で「フランス語漬け」の生活が始まるとは思ってもみませんでしたが——
それもまた、ちょっとした留学気分なのかもしれません。

言葉に戸惑いながらも、
愛と生活のバランスを探しながら。

今日も一行ずつ、辞書を片手にページをめくっています。
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