年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない
揺れる空と離陸
あの見合いの日から数日後、夕飯を食べ終わり、自分の部屋で私はクローゼットの前に座り込んでいた。
部屋の隅にいくつか置かれた段ボールは、まだ中身がほとんど入っていない。

「この本は持っていきたいな……」
お気に入りの小説を手に取り、パラパラとページをめくりながら、つい文字を追いかけてしまう。物語に引き込まれそうになり、慌ててそれを閉じた。

「こんなことしてたら、一生荷物片付かない……」
ため息と一緒にひとりごちて、本を段ボールに入れた。

あの後、とんとん拍子に鷹野君との結婚話は進んでいた。お義母様が率先して準備を進めてくれたこと、そして父がこのチャンスを絶対に逃さないという思いがあったのが大きい。二週間後には引っ越しをすることが決まっていた。

お義母様からは結婚式やお披露目の話があり、できればその思いに沿いたいと考えた。しかし、どうしても「鷹野君の妻になる」という現実を、公にする勇気が出なかった。

鷹野君はそんな私の気持ちを察したのか、「母にはちゃんと伝えるから大丈夫」と穏やかに言ってくれた。そしてその後、お義父様が私の父にも話をしてくれ、結婚の発表や式については、もう少し落ち着いてから行うと決まった。
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