年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない

暗雲の向こう側

芽衣と食事に行ってから三日後。今日は奏多君が戻ってくる日だ。朝から浮かれていた自覚はあり、仕事でも無理やり平静を装っていたことは内緒だ。

そんなとき、ふとスマホが音を立て、テーブルの上にあるそれを勢いよく手に取った。
【今日は二十一時半ごろだと思うから、先に食事はしておいて】
私を気遣う内容に、ふわりと温かい気持ちになる。「一緒に食べたいな……」思わずそう呟いた。
今は十九時半。三時間あれば、それなりの料理が作れる。長時間のフライトの後は、どんなものが食べやすいだろうか。

そんなことを考えながら、スマホをキッチンのカウンターに置き、冷蔵庫を開ける。

ほどよく脂ののった鶏肉と、さきほど買ったばかりの新鮮な野菜。優しい甘みのある煮込み料理なら、疲れた体にもよさそうだ。
鍋で鶏肉をきつね色になるまで焼いた後、水と野菜を加え、ハーブや調味料を入れて火にかける。
トマトベースがおいしいだろうか。そんなことを思いながら、ふと気づく。誰かのために料理をすることが、こんなに楽しいなんて
――知らなかった。

煮込んでいる間にサラダを作り、明日の朝ごはん用に作り置きのきんぴらなどを準備していく。