キスはボルドーに染めて

プレゼンの日

 陽菜美は会議室に入ると、昨日完成した資料を机に並べていく。

 蒼生の新規企画のプレゼンは午前中に予定されており、もう少ししたら参加者も集まりだすだろう。


 結局、昨夜の美智世との出来事は、フロアに戻った後も蒼生には話せなかった。

 蒼生に話すのを躊躇うほど、陽菜美を見る美智世の目つきには、嫌悪感だけでなく恨みのようなものが込められているような気がしたのだ。


 ――それにあの目線は、蒼生さんに向けられたものと同じだったような気がする……。


 陽菜美は資料を配る手を止めると、小さく息をつく。
 

 『私、人のものに手を出す人間は大嫌いよ。心底軽蔑するわ』


 吐き捨てるようにそう言った美智世の顔が浮かび、陽菜美はふるふると大きく頭を振った。


 ――私は社長が思うようなことはしていない。堂々としていればいいのよ。


 陽菜美が「よし」と自分に渇を入れた時、廊下にざわざわと人の声が聞こえ出す。

 陽菜美は手早く準備を整えると、参加メンバーを案内するため会議室の扉を開いた。
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