キスはボルドーに染めて

大切なひと

「結城さんおめでとう! 新規企画、無事に社長の承認がおりて良かったね」

 プレゼンが終了し、プロジェクターを片付けていた陽菜美が振り返ると、女性社員たちが駆け寄ってくる。

「皆さん……」

 祝福してくれる皆の笑顔に、陽菜美の瞼がじんわりと熱くなった。


 あの騒動の後、蒼生は完璧ともいえるプレゼンを披露した。

 そしてその内容は、集まった社員だけでなく美智世をもうならせる出来で、無事に新規企画として進めることが決まったのだ。


「美智世社長が怒りだした時はびっくりしたけどさぁ。結城さん、本っ当にカッコ良かったよ!」

 肘をツンツンとされ、陽菜美は肩をすくませると小さく首を振った。

「私はただ無我夢中に、自分の想いを伝えただけです。蒼生さんや皆さんの後押しがあったからこそ、プレゼンは成功できたと思ってます」

「またまたぁ」

 きゃははと笑う皆にもみくちゃにされながら、陽菜美は改めて皆の心根の優しさを感じる。

 初めは挨拶すらできなかったのに、今はこうして陽菜美を仲間のひとりとして思ってくれるのだ。

 陽菜美は笑顔を見せながら、ふと会議室の後ろに立っている蒼生に目を向けた。
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