キスはボルドーに染めて

甘い時間

 あれから店を出た二人は、タクシーを拾うために大通りへと向かった。

 するとビル風も相まったのか、途端に冷たい風が吹き、陽菜美は「きゃ」と身を縮める。

 高揚する気持ちとアルコールで全身は火照(ほて)っていたが、さすがに初冬の夜は冷える。

 冷たい風が頬にあたり、肩をすぼめた陽菜美に、蒼生が自分の薄手のマフラーを首に巻いてくれた。


 しばらくして一台のタクシーが目の前で停車し、陽菜美は蒼生に手を取ってもらいながら車に乗り込む。

 まるで自分を大切なもののように扱ってくれる蒼生に、陽菜美は夢見心地のまま隣に腰かけた。


 蒼生が運転手に行き先を告げると、車はゆっくりと発進する。

 徐々にスピードが上がるのを感じながら、陽菜美の鼓動は比例するようにドキドキと高鳴っていった。

 さっきから蒼生の広い手は、陽菜美の手を優しく包み込むように握ったままだ。


 ――蒼生さんの手、すごく温かい。


 陽菜美は顔を上げると、ネオンに目をやる蒼生の横顔を見つめた。
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