キスはボルドーに染めて

つかの間のやすらぎ

 会社に出社した陽菜美は、経営企画室のブラインドを勢いよく開けると、差し込む朝日に目を細めた。

 あれからしばらく経ち、季節は春をむかえている。

 最近はだいぶ温かくなって、上着のいらない日も増えてきた。


 あの日、想いを通わせた陽菜美と蒼生は、今も順調に愛をはぐくんでいる。

 平日は時間が合えばお互いのマンションを行き来して、週末にはどちらかの部屋で過ごすのがパターンになっているが、ただ最近はそれがままならない日も増えてきた。

 というのも、新規企画が本格的にOTOWAグループの企画として進み始め、蒼生が多忙を極めるようになったのだ。

 蒼生の実力は社内のみならず、グループ全体でも再認識されるようになり、頻繁に打ち合わせといって外出することが多くなった。

 それ自体は喜ばしいことなのだが、陽菜美と蒼生が二人きりで過ごす時間が急激に減っているのは事実だ。


「俺は前みたいに、陽菜美と二人だけで、のんびり仕事するので良いんだけどな」

 蒼生は冗談めかして言っていたが、蒼生自身が抱える問題を解決するためにも、まずは仕事で信頼を取り戻すことが重要だということは、陽菜美にも十分理解できた。
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