キスはボルドーに染めて

突然の訪問者

　蒼生が打ち合わせに出てだいぶ経った頃、突然デスクの内線電話が鳴った。

　陽菜美はドキッとすると、慌てて受話器を取り上げる。

「はい、経営企画室……あぁ、お疲れ様です」

　内線をかけてきたのは、受付の女性社員だ。

　どうも蒼生に来客のようだが、蒼生の戻り予定の時刻まではまだ間がある。

　元々来客の予定はなかったため、陽菜美がしばし返答に迷っていると、電話口の向こうで何やら慌ただしい話声が聞こえてくる。


「あ……あの、お待ちください……」

　陽菜美が受話器を持ったまま首を傾げていると、ガサガサという音の後に、慌てた様子で受付の女性が再び電話口に出た。

「ごめん結城さん。場所はわかるからって、そっち行っちゃったの。音羽さんって言ってたから、どうも身内っぽいんだよね。お願いできる？」

「わかりました！」

　陽菜美はすぐに受話器を置くと、慌てて来客用のテーブルを片付ける。


　今まで蒼生から、家族の話はほとんど聞いたことがない。

「身内って……誰だろう……？」