キスはボルドーに染めて

休み明けの憂鬱

「あーちょうど良かった結城(ゆうき)君。今日の午後の報告会、君にも出て欲しいんだ」

 連休明けの朝、陽菜美が会社の廊下を歩いていると、フロア課長に声をかけられる。

 陽菜美は渋い顔をしそうになったのを無理やり抑え込むと、にっこりとほほ笑んだ。


「あぁ、今日の報告会ってたしか……」

 陽菜美の声に課長は満足そうにうなずくと、ずり落ちた眼鏡をぐいっと押し上げる。

「そうそう! この前、結城君が対応してくれたクレームがあっただろう? 向こうの担当者もえらく感心していてねぇ、今日の報告会は特別にお偉いさんも一緒に来るんだそうだ」

 課長は鼻先を上に向けると、ふんと勝ち誇ったような顔を見せた。

 陽菜美は、あははと課長に愛想笑いをすると、小さく眉を下げる。


 陽菜美が働くテレカスタマーサービス株式会社は、主にネット通販をしている企業から委託を受けて、コールセンター業務を代行している。

 電話を受けるオペレーターは、陽菜美のように派遣社員が多く、各ブースに分かれて担当企業からもらったマニュアルを元に、商品説明やクレーム対応などにあたっているのだ。
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