キスはボルドーに染めて

初めて知った過去

「陽菜美ちゃん! 陽菜美ちゃん!」

 床にうずくまっていた陽菜美は、大きく肩を揺すられ、正気を取り戻したようにはっと顔を上げる。

「どうしたの!? 何があったんだよ!?」

 顔を覗き込ませる杉橋に、陽菜美は「え……」と辺りを見渡した。


「いくら呼びかけても反応がないし、耳を塞いで、泣きながらうずくまってるからさぁ」

 杉橋の声に、陽菜美は慌てて自分の頬に手を当てる。

 涙がいくつも流れたであろう頬は、ひんやりと冷たくなっていた。

「ごめんなさい……」

 陽菜美が小さく声を出すと、杉橋ははぁと大きく息をつく。

「とりあえず座ろう」

 陽菜美は杉橋に肩を支えられながら、ゆっくりと立ちあがるとソファに腰を下ろした。


 どれくらいの時間、うずくまっていたのかわからない。

 部屋の中はしーんとして、いつもと変わらず穏やかなままだ。

 純玲がここに居て、あんなことを話しただなんて、きっと誰も思いもよらないだろう。


「何があったの?」

 杉橋が険しい顔を覗き込ませ、陽菜美は静かに目を閉じた。
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