キスはボルドーに染めて

見えてきた真実

「くそっ」

 渋滞で立ち往生させられた蒼生は、小さく声を漏らすと握っていたハンドルをドンッと拳で叩く。

 頭の中では昨夜からの出来事が、次々と浮かんでは消えていた。

 蒼生はもう一度車のナビの画面を操作すると、電話番号を表示させる。

 でも電話は呼び出し音の後、むなしく留守番電話につながるだけだった。


 蒼生は昨夜一睡もしていない頭に手を当てると、目を閉じて深く息を吐く。

 今朝は朝一番にOTOWAホールディングスへと向かった。

 でも父親は「今日は忙しい」の一言で、蒼生に会おうともしなかったのだ。


「これからどうすれば……」

 蒼生が小さく声を出した時、ふいに遠くの歩道で、誰かがタクシーに駆け込む姿が見える。

 あれはOTOWineが入っているビルの目の前だ。

 その姿を見た途端、蒼生は小さく瞳を開く。

「陽菜美……?」

 遠すぎてはっきりとは見えないが、あれは確かに陽菜美だ。

 蒼生は、今度はスマートフォンを取り出すと、陽菜美の番号に電話をかけた。
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