キスはボルドーに染めて

三年前の真実

「DNA鑑定などと……そんな事、社内に知れたら恥では済まされんぞ」

 しばらくして父親が、嘆くように大きく首を振った。

「あら、そうかしら? 蒼生さんの子だと、吹聴される方がよほど大問題ですわ」

「吹聴だと?」

 父親の声に、美智世は鋭い目つきで顔を上げる。


「お兄さま、(わたくし)はね、信頼できる人の話しか、聞きたくないのですよ」

「信頼?」

「えぇ、そうですわ」

 美智世は一旦口をつぐむと、わなわなと怒りを浮かべた表情のまま、立ち尽くしている一輝を振り返った。


「時に一輝さん、あなた向こうでは随分と好き勝手されているようね。毎日接待と言っては、会社のお金で女性のいるお店に入り浸っているとか……。私の耳に入るくらいだから、お兄さまが知らないはずはないと思うのだけど……」

 チラッと顔を上げる美智世に、一輝と父親がわざとらしく目を逸らす。

 その様子に美智世はふんと鼻を鳴らした。

「お兄さまは昔から、一輝さん贔屓(びいき)でしたものね。蒼生さんの方が明らかに出来は良かったのに……。純玲さんだって、なんだかんだ言って、蒼生さんから長男の一輝さんに乗り換えたんでしょう?」
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