キスはボルドーに染めて

ひとつになる心

 OTOWAホールディングスのエントランスを出て、夕日が沈むオフィス街を蒼生と並んで歩く。

 するとしばらくして、蒼生が急にぴたりと足を止めた。

 陽菜美が振り返ると、蒼生はオレンジ色に染まる瞳を潤ませている。

 蒼生の瞳に溜まった雫は、次第に大きくなり、やがて一つ二つと零れ落ちた。


「蒼生さん……」

 陽菜美は蒼生に駆け寄ると、腕を大きく伸ばし蒼生を包み込むように抱きしめる。

 前に蒼生は、今まで一度も泣けなかったと言った。

 それはきっと、蒼生が皆の幸せを願うあまり、必死に自分の心を閉じ込めていたからだと思う。

 でも今、蒼生の心の重りは消え、自由になったのだ。


 ――やっと終わった……。蒼生さんの苦しみが、やっと終わったんだ……。


 陽菜美は心の中でそう呟くと、自分も溢れださんばかりの涙が溜まった顔を上げた。

 蒼生は陽菜美を愛しそうに見つめると、指先でそっと頬に優しく触れる。

「陽菜美、本当にありがとう。陽菜美がいてくれたから、俺は前に進むことができた」
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