キスはボルドーに染めて

エピローグ

 あれからしばらくして、本格的な春がやって来た。

 陽菜美は今日も蒼生の横顔を見つめながら、デスクのパソコンを立ち上げる。

 今日から1週間、陽菜美は蒼生と一緒に出張に行く予定だ。

 取り急ぎメールのチェックだけでも済まそうと、手早くマウスをクリックする。

 陽菜美が画面を覗き込みながらキーボードを叩きだすと、急にソファに座っていた杉橋が大あくびをする声が聞こえてきた。


「それにしてもさぁ、そろそろ話してくれてもいいんじゃない?」

 杉橋はあくびをして潤んだ目元をゴシゴシとこすると、やはりパソコンに向かっている蒼生に顔を向ける。

「そろそろ? 何をだ?」

 蒼生は画面に目線を向けたまま、わざとらしく(とぼ)けたような声を出した。

「だからぁ!」

 杉橋は頬を膨らませると、ずんずんと蒼生の前に寄る。


「いつの間にか大問題が起きて、いつの間にか解決しちゃったわけよ。あーんなに泣いてた陽菜美ちゃんが、気がつけば“全身幸せオーラ”を放っちゃってるわけですよ!」

 まるで演説でもするかのような杉橋の声に、陽菜美は蒼生と顔を見合わせるとあははと声を出して笑った。
< 223 / 230 >

この作品をシェア

pagetop