キスはボルドーに染めて

はちゃめちゃと強引

 それからしばらくして、二人は葡萄畑の脇をシャトーへと向かって歩き出した。

 街灯のほとんどない葡萄畑は、シャトーの明かりだけが頼りだ。

 慎重に足を進めていると、男性が顔をこちらへ向けた。


「もう暗いからホテルまで送って行くよ。どの辺りに宿泊予定なんだ?」

 首を傾げる男性に、陽菜美は困ったように頭に手をやる。

「えっと、実はホテルは取ってないんです」

 陽菜美は泣きはらした目を細めると、えへへと肩をすくめた。


 陽菜美は、とにかく貴志の存在を感じる部屋から、逃げ出したい一心でここまで来た。

 当然スケジュールなどを考える余裕もなく、ただただ飛行機に飛び乗っただけだったのだ。


「宿泊先もなく、こんなところまで来たのか!?」

 男性は、信じられないという様子で首を振っている。

「だって、何も考えられなかったんですもん。とりあえずこの後は、列車でパリまで戻って、あとは空港で時間つぶそうかなって……」

 すると陽菜美が言い終わらない内に、男性の盛大なため息が聞こえた。
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