キスはボルドーに染めて

動き出す心

 週が明け、いよいよプレゼンの日は今週末に迫っていた。

 蒼生はさっきから難しい顔をして、パソコン画面をじっと見続けている。

 デスクの脇には、手のつけられていないサンドイッチが、置かれたままになっていた。


「コーヒー置いておきますね」

 陽菜美は、蒼生のカップに新しく淹れたコーヒーを注ぎ、サンドイッチの隣にそっと置く。

「ありがとう」

 蒼生が顔を上げ、陽菜美はにっこりとほほ笑むと、自分も昼食をとるためにソファに座った。


「やっぱり新規企画は、診断アプリの開発ってのが、今のところ一番有力なの?」

 すると昼休憩も兼ねて部屋に来ていた杉橋が、陽菜美の向かいで資料をめくりながら顔を上げる。

「そうですね。新しい商品に挑戦してもらう導入としては、良いかなと思ってます。やっぱりネット通販は味見ができない分、知らない商品は冒険しづらいですもんね」

 陽菜美は大きな口を開けると、がぶりとハンバーガーにかじりつく。

 途端にバンズのゴマがプチプチと弾けて、香ばしい香りが口いっぱいに広がった。
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