キスはボルドーに染めて

それぞれの心の内

 陽菜美はふうと息をつくと、コーヒーカップをテーブルに置く。

 あれからしばらくして、蒼生は用事があるといって外出した。

「いってらっしゃい」

 そう声をかけた陽菜美に、蒼生はいつもと変わらぬ様子で片手を上げたのだ。


 蒼生のことを好きだと自覚してしまった今、二人きりで過ごすこの空間は、妙に意識してしまい心臓に悪い。

「蒼生さんは普通にしてたけど……」

 陽菜美は天井を見上げると、ほんのりと頬を染めた蒼生の顔を思い浮かべる。

 あの時、蒼生はゴマを取ろうとしたと言っていたが、陽菜美は完全にキスされると思った。

 それほど、蒼生の瞳の奥には、今まで見たことがない程の熱っぽさを感じたのだ。


「蒼生さんは、どう思ってるんだろう……」

 陽菜美は、はぁと大きくため息をつくと、バタンとソファに倒れ込む。

 貴志と付き合っている時は、こんな気持ちにはならなかった。

 都合よく求められるばかりで、結局、陽菜美の心は追いついていなかったのかも知れない。

 だからこそ、こんなにも胸が高鳴るのは久しぶりなのだ。
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