キスはボルドーに染めて

二度目の接近

「ついに完成!」

 陽菜美は印刷された資料を頭上に掲げると、デスクでパソコンに向かう蒼生に満面の笑みを向ける。

「蒼生さん! 全部印刷できましたよ!」

 陽菜美はそう言うと、パッと顔を上げた蒼生の元に駆け寄った。

 壁にかかる時計の時刻は、もう21時を過ぎている。

 静まり返った社内で、この部屋だけが、いまだに煌々と明かりを照らしていた。


 あれから数日、陽菜美と蒼生は連日、夜遅くまで会社に残って、二人の案を合わせた企画を作り上げた。

 そしてそのプレゼン用の資料が、たった今完成したのだ。

 陽菜美は出来立てほやほやの企画書を蒼生に手渡す。

 その表紙には“記念日ワインという名のハイクラス体験”というタイトルが添えられていた。

 陽菜美はその文字を見つめながら、数日前の蒼生との会話を思い出す。


 あの日、二人の案を合わせると言った蒼生が話したのは、ワインを投資商品として販売する企画案だった。

「ワイン投資……ですか?」

 陽菜美は、全く耳馴染みのない言葉に、大きく首を傾げる。
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