私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】

May 第19話 もう会えないの?

諦める、諦めない、諦める、諦めない―――ずっと鍵盤を叩いていた。

望未(みみ)先生?あのさっきから、同じ音を弾いてますけど……」

レッスンが終わった関家(せきや)君が不思議そうな顔で私の顔をのぞきこんだ。

「え、えーと……指の運動っていうかー……」

「悩みがあるなら、相談に乗りますよ」

男子高校生に相談に乗られてしまう私―――今年、二十三歳。

「ううん!何もないよっ。ありがとうねー!部屋の鍵、閉めるね」

椅子から立ち上がって、外に出る。
木々の緑が濃くなり、あの日の激しい雨が嘘みたいに日差しが眩しい。
梶井(かじい)さんはいつドイツに戻るんだろう。
きっともうすぐ。
二週間程度しか、ここにはいられないはずだ。
梶井さんが出演するドイツでの活動スケジュールが事務所のホームページに発表されていたし、それを考えたら、出発は明日か明後日―――もう、日本にはいないかもしれない。

「先生、あの男だけはやめた方がいいと思いますよ」

「あの男って?」

梶井(かじい)理滉(みちひろ)。俺、あいつがすげー美人といるとこ見たんですよ」

ずきっと胸が痛んだ。
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