私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】

March 第3話 待ち人

朝起きると白い霧がかかっていた。
シフトを確認すると、今日店長の小百里(さゆり)さんがいるから、忙しくなるお昼の時間帯と夕方の時間帯だけフロアを手伝ってピアノを弾く。
それから、ピアノ教室のレッスンの予約が午後から入っていた。
私の教え子は今のところ二人。
小学生の女の子と高校生の男の子だけ。
二人ともカフェにきて、私のピアノを聴いて生徒になってくれた。

望未(みみ)ちゃん。カフェオレ飲む?」

「飲む」

窓の外を眺めていた私にカフェオレをいれてくれるのは一つ上の姉の菜湖(なこ)ちゃんだった。
年が近いから、友達みたいな存在。
買い物にも旅行にも一緒に行くくらいに仲がいい。
両親は建築事務所をやっていて、仕事が忙しく昔から放任主義。
菜湖ちゃんは『両親はなんでも適当すぎる!』とよく言っていた。
私の進路も音大なんて学費が高いのに『どこでもいいよ』『好きなことやりなさい』ってくらい軽いかんじで決まった。
菜湖ちゃんだけが『就職あるの?大丈夫?』と心配していた。
家族の中で一番しっかりしていて、真面目なのは菜湖ちゃんで間違いない。
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