私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】

April 第10話 声

演奏会が終わり、カフェ『音の葉』はいつもの静かな雰囲気に戻った。
お客さんの顔ぶれも新しい人が加わり、演奏会は大成功だったと思う。

「また来てる。あれは完全に望未(みみ)ちゃん狙いだね」

キッチンからフロアを覗いた穂風(ほのか)さんは出来立てのオムライスを私に差し出して言った。

「そんなことないですよ。前から来ていたじゃないですか」

オムライスのお客さんでランチはラストオーダー。
そのオムライスはリサイタルの日、私に名刺をくれた家具店社長の戸川(とがわ)達貴(たつき)さんのものだった。
あの日以来、達貴さんは私とちょっとした会話や挨拶をするようになっていた。

「望未ちゃん。それを運んだら、休憩に入って賄いを食べていいよ。今日は関家(せきや)君のレッスンがあるから、後は私がやっておくよ」

「はい、ありがとうございます」

今日のランチはオムライスセットか春キャベツで作ったロールキャベツの煮込みセット。
ロールキャベツにはパンがついてきて、手作りのイチゴジャムをつけて食べる。
これがまたおいしい。
レジ横でジャムを販売していて、私も一瓶買ってしまった。
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