私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】

May 第18話 叱咤【理滉】

ライターを手に取り、苛立ちながら煙草に火をつけた。
昨日の晩もなかなか眠れず、やっと眠れたと思ったら嫌な夢を見て目が覚めた。
窓を開けると雨はあがっているはずなのに雨の匂いがして、髪や体に残る雨粒を思い出す。
空気中に漂う湿気のせいなのか。
それが望未(みみ)が部屋にいたという証拠みたいで嫌だった。
部屋に入れたのが失敗だった。
不安定だった俺の心はよけいに乱れ、落ち着かない。

「だから、ガキは嫌なんだ」

無邪気に近寄ってくるから、うまく距離をとれない。
いつもなら、うまく距離をとれるはずが、部屋にまで入れ、危うく最後まで抱くところだった。
だめだと突き放せばよかった。
それができずに心地いい暖かさに誘われるまま、限界まで近づいてしまった。

「あいつ、ちゃんと帰ったよな……」

気まぐれに連絡先を渡したが、無駄になったな。
向こうからは連絡どころか、会っても挨拶もしてこないだろう。
そう思いながらスマホの画面を見ると、スマホに着信履歴が残っていた。

渋木(しぶき)唯冬(ゆいと)?」

メッセージが入っている。

『カフェ『音の葉』にきていただけませんか?』
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