25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました

再会の瞬間に、恋はふたたび

この25年間、一度だって、彼女のことを完全に忘れたことはなかった。
けれど──目の前に現れた“今の美和子”は、
俺の記憶の中よりもずっと柔らかく、静かで、美しかった。

……そうだ。忘れていたんだ。
25年前、初めて恋に落ちた、あの感覚を。
一瞬で視界が変わって、心の奥に風が吹いた、あの瞬間。
彼女の笑顔ひとつで、その記憶がありありとよみがえった。

あの時の俺は、若さと驕りで、相手の気持ちに耳を貸さず、
彼女に無礼を働いてしまった。
なのに、一度も謝ることもできずに、気づけば25年。

そんな時──
颯真の第一秘書宮坂が「将来の嫁候補もかねて秘書にどうかと思う女性がいる」と紹介してきたのが、佳奈だった。
あいつは御曹司で、これまでにも何人かの女性に“勝手に想いを寄せられ”、
それが原因で女性不信になった過去がある。
だからこそ、俺は用心深く、佳奈の身辺を調べた。
それは単なる父親としての判断だった。だが──

出てきた名前に、思わず息を呑んだ。
富岡美和子。

あの時の彼女の娘が、息子の秘書として、俺の目の前に現れたのだ。
そこからだった。
胸の奥に封じていた後悔と、謝りたいという想いがふたたび息を吹き返したのは。

彼女に会って、心から謝りたい。
一度だけでも、彼女に直接、言葉を届けたい。
──そう願い続けて、ついに叶った今日。

でも俺たちは、その後それぞれの人生を歩み、
家族を持ち、別の未来を選んできた。

だからこそ──
この想いは、過去にすがっているわけじゃない。
あの頃の彼女を追いかけているわけでもない。

今、この瞬間の美和子に、もう一度、心が惹かれた。
大人になった彼女を、大人になった俺が、ふたたび好きになった。

ただそれだけの、まっすぐで、自然な感情だった。

これは背徳じゃない。後ろめたさでもない。
過去にこだわるものでもない。

──これは、ふたたび出会った俺たちの、新しいはじまりなんだ。

連絡先を教えて欲しいという俺に、美和子の迷いが見えた。
だが、彼女は俺の求めに、応じてくれた。
過去を断ち切るようなあの強さが和らいだ、ほんの一瞬の隙を、俺は確かに見逃さなかった。

手にしたのは、たった一つの連絡先。
ただの数字の羅列。けれど、それは25年間ずっと閉ざされていた扉の鍵だ。
俺だけが開けられるように願ってきた、その扉。

あの頃の俺には、持ち得なかった冷静さと忍耐。
だが今の俺にはある──
彼女の歩幅に合わせて、少しずつ近づいていける分別も、余裕も、そして、誰にも渡したくないという強烈な想いも。

スマートフォンの画面に表示された名前を、指先でなぞってみる。

「美和子」

指先から、熱が伝わる気がした。
今度こそ、間違えない。
今度こそ、彼女を笑わせるために、彼女に触れる。

──第一段階、クリアだ。
口元が、勝手にゆるんでいた。
誰もいない車の中で、ふっと笑う自分がいた。

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