25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました

颯真と佳奈の新居

あの再会から一週間が経った。
今日は佳奈の引越しの日。

「荷物は少ないから、業者は呼ばないよ」と佳奈。
颯真くんの車でじゅうぶんらしい。

昨夜は、母娘ふたりきりの最後の晩餐。
美和子は、腕によりをかけて佳奈の好きなものばかりを並べた。
ずっと一緒にいたのに、もう巣立つなんて。
こんなに大きくなっちゃって……と、心の中でそっと感心する。

「私もこれから一人暮らしを謳歌しなくちゃ」
そんな気分になっていた。
引っ越し、してみようかな。
もうちょっと小さくて、便利な場所がいいな。
そう考えていたら、なんだか楽しくなってきた——

ピンポーン。

「颯真くん、来たみたい」

嬉しそうな佳奈の声が玄関から聞こえる。
挨拶しようと向かうと——そこにいたのは、二人と一緒に荷物を運び出す真樹だった。

「美和子さん、おはようございます」

「……え?どうして? あ、おはようございます」

「いや〜、人手が多い方が早く済むと思ってね。お邪魔しまーす」

まるで当然のようにズカズカと部屋へ入り、廊下に積まれた段ボールを運びはじめる真樹。


ちょっと待って……来るなんて聞いてないんだけど⁉
ていうか「お邪魔します」って何⁉
招いてないし、お邪魔されたくないし!
なにこの感じ、なんかもう……振り回されてる気がする……!

「お母さん、どうしたの? 難しい顔してるよ」
佳奈が心配そうにのぞきこむ。

「社長が来てくれてちょうどよかったよ。引越しそば、みんなで食べようって。
颯真くんの車は荷物でいっぱいだから、お母さんは社長の車に乗せてもらってね。
あ、社長もそのつもりだって」

にこっと笑う佳奈。

「……私は、片づけ終わってから落ち着いて行くことにするから、今日はやめとくわ」

「え? どこか具合悪いの?」

「そんなことないわよ」
美和子はあわてて否定する。

「良かった〜。お母さん、すぐ我慢しちゃうから。
一人暮らしさせるの、ほんとはすごく心配なんだよ?」

「こら、子どもじゃないんだから。
そんなこと言わないの。
大勢で押しかけたら、佳奈ちゃんたちが疲れちゃうでしょ?」

と笑ってみせるけれど——


やっぱり、彼と距離を取るのは難しそう。

< 15 / 102 >

この作品をシェア

pagetop