25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
近づく距離 真樹
真樹は自宅のリビングに腰を下ろし、ふうっと息を吐いた。静かな部屋の中、今日の一コマ一コマがスライドのように脳裏に浮かんでくる。
美和子の家に足を踏み入れた瞬間の、あのなんとも言えない胸の高鳴り。
引っ越しの荷物はあれど、空間そのものは彼女らしく整えられていて、雑然とした感じはなかった。むしろ、引っ越しの途中とは思えないほど、すっきりとしていた。余計なものがなく、空気が澄んでいて、そこに佇むだけで、彼女の“今”を感じられた。
そして――
普段着の美和子。
あれには不意を突かれた。
淡いベージュのカーディガンに、柔らかな素材のワイドパンツ。
肩の力が抜けたラフさの中に、品の良さと年齢を重ねた女性の美しさが滲んでいた。思わず目を奪われた自分がいた。
彼女の素顔が、ほんの少し見えたような気がして。
それが、たまらなくうれしかった。
真樹は最初から、引っ越しの手伝いなんてただの名目で、本当の狙いは“美和子に会うこと”だった。
美和子が颯真たちの新居から帰ったあと、ふと「この辺に大型書店があるらしい」と颯真に話したとき、佳奈が口を挟んだ。
「うちの母も書店めぐりが好きで、休みの日にはよく立ち寄ってるんですよ」
「……へえ、そうなんだ」
──このチャンス、逃してたまるか。
そう心でつぶやきながら、平静を装って玄関を出る。
そのくせ、足取りは妙に早い。
エントランスめがけて、階段を一気に駆け下りた。
美和子の家に足を踏み入れた瞬間の、あのなんとも言えない胸の高鳴り。
引っ越しの荷物はあれど、空間そのものは彼女らしく整えられていて、雑然とした感じはなかった。むしろ、引っ越しの途中とは思えないほど、すっきりとしていた。余計なものがなく、空気が澄んでいて、そこに佇むだけで、彼女の“今”を感じられた。
そして――
普段着の美和子。
あれには不意を突かれた。
淡いベージュのカーディガンに、柔らかな素材のワイドパンツ。
肩の力が抜けたラフさの中に、品の良さと年齢を重ねた女性の美しさが滲んでいた。思わず目を奪われた自分がいた。
彼女の素顔が、ほんの少し見えたような気がして。
それが、たまらなくうれしかった。
真樹は最初から、引っ越しの手伝いなんてただの名目で、本当の狙いは“美和子に会うこと”だった。
美和子が颯真たちの新居から帰ったあと、ふと「この辺に大型書店があるらしい」と颯真に話したとき、佳奈が口を挟んだ。
「うちの母も書店めぐりが好きで、休みの日にはよく立ち寄ってるんですよ」
「……へえ、そうなんだ」
──このチャンス、逃してたまるか。
そう心でつぶやきながら、平静を装って玄関を出る。
そのくせ、足取りは妙に早い。
エントランスめがけて、階段を一気に駆け下りた。