25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
美和子の気持ちの変化
美和子は、簿記の資格を生かして会計事務所で働いている。
あの本屋でのデートから、もうすぐひと月が経とうとしていた。
社長である真樹は多忙らしく、連絡もまばらだ。
彼に買ってもらった推理小説は、とうに読み終わっている。
けれど、それを渡す機会のないまま、玄関の隅に置かれていた。
毎日、出勤のたびにその本が目に入り、美和子はふとため息をつく。
「忙しそうだから、郵送します」
そうメッセージを送ったら——
「今は読む時間もないし、きみが読んだのがいいんだ。次に会うときに渡して」
そんな返信が返ってきた。
その言葉に「そう、なのね」と納得する自分もいれば、
どこか腑に落ちない思いが残る自分もいた。
彼に買ってもらったパンプスは、
服にもバッグにも合わせやすくて、美和子のお気に入りになっている。
週に二度は大事に履いて、足元から気持ちを整えている。
本と、パンプス。
些細なきっかけで、真樹を思い出すことが増えた。
玄関に置いたままの推理小説。足元のパンプス。
メールの文面に迷ってふと浮かぶ、「この言い回し、彼ならどう返すだろう?」という想像。
——ほんの些細なことなのに、気づけば一日に一度は、真樹の姿が脳裏をよぎっている。
最初は気のせいだと思った。
「会ってからまだそんなに経ってないしね」と、なんとなく納得した。
次に、「でも、デートって呼ぶほどのことでもなかったし」と自分に言い聞かせた。
でも、なぜだろう。
彼の話し方、視線、間合い。
返された短いメッセージの奥に、どこか少し不器用な優しさを感じると、
ほんの一瞬、胸の奥が、やさしく音を立てる気がする。
けれど、美和子自身はまだその感情に名前をつけていない。
——というか、つけようとしていない。
「気になるっていうか、なんだろう…放っておけない、みたいな?」
「うーん、あの人ってたまに変だし……」
「いやいや、佳奈の上司で舅さんになるんだし」
自分でも言い訳が多すぎて、途中でおかしくなる。
“あれ? 私、なんでこんなに考えてるんだっけ?”
たぶん、わかっているのに気づかないふりをしているだけ。
だってそれを認めてしまったら、何かが始まってしまう気がするから。
だから今日も、美和子は気づかないふりをして、
真樹からもらったパンプスをそっと履く。
「これ、履きやすいし、歩きやすいのよ」
そう言いながら、まるで誰かに言い訳するように。
ほんの少し、ほほ笑みながら。
あの本屋でのデートから、もうすぐひと月が経とうとしていた。
社長である真樹は多忙らしく、連絡もまばらだ。
彼に買ってもらった推理小説は、とうに読み終わっている。
けれど、それを渡す機会のないまま、玄関の隅に置かれていた。
毎日、出勤のたびにその本が目に入り、美和子はふとため息をつく。
「忙しそうだから、郵送します」
そうメッセージを送ったら——
「今は読む時間もないし、きみが読んだのがいいんだ。次に会うときに渡して」
そんな返信が返ってきた。
その言葉に「そう、なのね」と納得する自分もいれば、
どこか腑に落ちない思いが残る自分もいた。
彼に買ってもらったパンプスは、
服にもバッグにも合わせやすくて、美和子のお気に入りになっている。
週に二度は大事に履いて、足元から気持ちを整えている。
本と、パンプス。
些細なきっかけで、真樹を思い出すことが増えた。
玄関に置いたままの推理小説。足元のパンプス。
メールの文面に迷ってふと浮かぶ、「この言い回し、彼ならどう返すだろう?」という想像。
——ほんの些細なことなのに、気づけば一日に一度は、真樹の姿が脳裏をよぎっている。
最初は気のせいだと思った。
「会ってからまだそんなに経ってないしね」と、なんとなく納得した。
次に、「でも、デートって呼ぶほどのことでもなかったし」と自分に言い聞かせた。
でも、なぜだろう。
彼の話し方、視線、間合い。
返された短いメッセージの奥に、どこか少し不器用な優しさを感じると、
ほんの一瞬、胸の奥が、やさしく音を立てる気がする。
けれど、美和子自身はまだその感情に名前をつけていない。
——というか、つけようとしていない。
「気になるっていうか、なんだろう…放っておけない、みたいな?」
「うーん、あの人ってたまに変だし……」
「いやいや、佳奈の上司で舅さんになるんだし」
自分でも言い訳が多すぎて、途中でおかしくなる。
“あれ? 私、なんでこんなに考えてるんだっけ?”
たぶん、わかっているのに気づかないふりをしているだけ。
だってそれを認めてしまったら、何かが始まってしまう気がするから。
だから今日も、美和子は気づかないふりをして、
真樹からもらったパンプスをそっと履く。
「これ、履きやすいし、歩きやすいのよ」
そう言いながら、まるで誰かに言い訳するように。
ほんの少し、ほほ笑みながら。