25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました
美和子の回想
今日は休みの日だった。
美和子はコーヒーを片手に、静かに窓の外を見つめる。
——そろそろ、物件を探しに行こうか。
ここに、佳奈が帰ってくることはもうない。
三人で暮らしたこのマンション。
この部屋も、そろそろ手放して、もっと小さな場所に引っ越そう。違う街で、新しい暮らしを始めたい。
空を見上げながら、心の中でつぶやく。
「信ちゃん、それでいいよね」
信吾が亡くなって、もう5年になる。
車の事故だった。あまりに突然で、信じられなかった。
信吾とは大学で出会った。
二つ年上の先輩で、恋人ではなかったけれど、在学中からずっと頼れる相談相手だった。
周囲の人たちが、富岡不動産の一人娘である美和子に媚びを売るように近づいてくるなか、
信吾だけはそんな態度を一切見せなかった。
彼が先に卒業してからは、話す機会も減っていたが、年に一度のOB会でたまに再会していた。
大学3年生のある日、美和子は父の横やりで就職活動がうまくいかず、リクルートスーツのまま、落ち込んだ足取りで歩いていた。
「あれ、富岡じゃないか?」
見上げると、スーツ姿の信吾が笑顔で立っていた。
「先輩……お久しぶりです。お忙しそうですね」
「君も就活、大変だな。顔が沈んでるぞ。話、聞くぞ。いつでも連絡しろ。じゃあな」
そう言って、彼は笑って去っていった。
その夜、信吾からメッセージが届いた。
《明日の夜、空いてるか?よかったら飯でも食おう。話、聞くぞ》
美和子は嬉しくなって、「よろしくお願いします」と返した。
翌日、静かなカジュアルレストランで、彼女は今の状況をすべて打ち明けた。
簿記の勉強をしていて、それを活かして会計の仕事をしたいこと。
でも、両親は卒業後すぐにお見合いをして結婚するようにと言っていて、自分の人生なのに選択権がないようで、どうしようもなく苦しいこと。
信吾は何も言わずに、ただ静かに話を聞いてくれた。
話し終えたあと、「他に言いたいことはあるか」と、穏やかに尋ねてきた。
美和子は、首を横に振った。
「富岡……本当に、どうしたいんだ?」
「自分の人生を、自分で決められないって、それ本当なのか?」
「君は……本当は、どうしたいんだ?」
美和子は視線を落とし、小さく言った。
「……わかりません」
「結婚は、一生を左右することだぞ。
親の決めた人生を生きるって決めたなら、それもいい。
でもそれが嫌なら、本気で自分がどうしたいのか、向き合うしかない」
彼のまっすぐな言葉が胸に刺さった。
「今が、そのタイミングかはわからない。
でも、俺は真剣だ」
顔を上げると、信吾の真剣な目が、美和子を見つめていた。
「富岡……いや、美和子。
結婚を前提に、付き合ってください」
驚きに、美和子は口元を押さえ、信吾をじっと見つめた。
「君は気づいてなかったと思うけど、俺はずっと君のことが好きだった」
「君の無邪気な笑顔に、いつも癒されてた。
周りに群がる男たちを避ける君のこと、ちゃんと見てたよ」
「……俺は、ごく普通の家庭に育った。君とは住む世界が違うって、ずっと思ってた。
だから気持ちは隠してきた。
でも、君が“自分の人生を選ぶ”って決めたなら……そこに、俺も入れてくれないか」
「1週間だけ待ってやる。真剣に考えろ。
人生は一度きりだ。
いつ終わるかなんて、誰にもわからない。
わかるのは、“どう生きたいか”だけだ」
「1週間後、またここで返事を聞かせてくれ」
そう言って、信吾は話題をさらりと変えた。
——1週間だけ待ってやる、か。
「信ちゃんも、結構勝手で強引だったなぁ……」
そう思うと、美和子は思わず笑った。
美和子はコーヒーを片手に、静かに窓の外を見つめる。
——そろそろ、物件を探しに行こうか。
ここに、佳奈が帰ってくることはもうない。
三人で暮らしたこのマンション。
この部屋も、そろそろ手放して、もっと小さな場所に引っ越そう。違う街で、新しい暮らしを始めたい。
空を見上げながら、心の中でつぶやく。
「信ちゃん、それでいいよね」
信吾が亡くなって、もう5年になる。
車の事故だった。あまりに突然で、信じられなかった。
信吾とは大学で出会った。
二つ年上の先輩で、恋人ではなかったけれど、在学中からずっと頼れる相談相手だった。
周囲の人たちが、富岡不動産の一人娘である美和子に媚びを売るように近づいてくるなか、
信吾だけはそんな態度を一切見せなかった。
彼が先に卒業してからは、話す機会も減っていたが、年に一度のOB会でたまに再会していた。
大学3年生のある日、美和子は父の横やりで就職活動がうまくいかず、リクルートスーツのまま、落ち込んだ足取りで歩いていた。
「あれ、富岡じゃないか?」
見上げると、スーツ姿の信吾が笑顔で立っていた。
「先輩……お久しぶりです。お忙しそうですね」
「君も就活、大変だな。顔が沈んでるぞ。話、聞くぞ。いつでも連絡しろ。じゃあな」
そう言って、彼は笑って去っていった。
その夜、信吾からメッセージが届いた。
《明日の夜、空いてるか?よかったら飯でも食おう。話、聞くぞ》
美和子は嬉しくなって、「よろしくお願いします」と返した。
翌日、静かなカジュアルレストランで、彼女は今の状況をすべて打ち明けた。
簿記の勉強をしていて、それを活かして会計の仕事をしたいこと。
でも、両親は卒業後すぐにお見合いをして結婚するようにと言っていて、自分の人生なのに選択権がないようで、どうしようもなく苦しいこと。
信吾は何も言わずに、ただ静かに話を聞いてくれた。
話し終えたあと、「他に言いたいことはあるか」と、穏やかに尋ねてきた。
美和子は、首を横に振った。
「富岡……本当に、どうしたいんだ?」
「自分の人生を、自分で決められないって、それ本当なのか?」
「君は……本当は、どうしたいんだ?」
美和子は視線を落とし、小さく言った。
「……わかりません」
「結婚は、一生を左右することだぞ。
親の決めた人生を生きるって決めたなら、それもいい。
でもそれが嫌なら、本気で自分がどうしたいのか、向き合うしかない」
彼のまっすぐな言葉が胸に刺さった。
「今が、そのタイミングかはわからない。
でも、俺は真剣だ」
顔を上げると、信吾の真剣な目が、美和子を見つめていた。
「富岡……いや、美和子。
結婚を前提に、付き合ってください」
驚きに、美和子は口元を押さえ、信吾をじっと見つめた。
「君は気づいてなかったと思うけど、俺はずっと君のことが好きだった」
「君の無邪気な笑顔に、いつも癒されてた。
周りに群がる男たちを避ける君のこと、ちゃんと見てたよ」
「……俺は、ごく普通の家庭に育った。君とは住む世界が違うって、ずっと思ってた。
だから気持ちは隠してきた。
でも、君が“自分の人生を選ぶ”って決めたなら……そこに、俺も入れてくれないか」
「1週間だけ待ってやる。真剣に考えろ。
人生は一度きりだ。
いつ終わるかなんて、誰にもわからない。
わかるのは、“どう生きたいか”だけだ」
「1週間後、またここで返事を聞かせてくれ」
そう言って、信吾は話題をさらりと変えた。
——1週間だけ待ってやる、か。
「信ちゃんも、結構勝手で強引だったなぁ……」
そう思うと、美和子は思わず笑った。