25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました

家具屋デート

翌日。予定通り、真樹は11時に車で美和子を迎えに来た。

スカートとカットソーに、バッグと真樹から贈られたパンプスを合わせて出かけた。
真樹と何軒か家具屋を回るのは、思いのほか楽しい時間だった。

テーブルセットにベッド、ナイトスタンドとランプを注文し、入居時の鍵渡しに間に合うよう配送を手配してもらった。
真樹も、いくつか気に入った家具を見つけたらしい。

遅めのランチは、近くのカフェで。
サンドイッチとドリンクのセットをそれぞれ頼む。
「今度こそ、ご馳走させてください」と美和子は言ったが、真樹のスマートな動きに、またもや先を越された。

食事をしながら、真樹が言う。

「ほかに必要なものはあるか?」
「そうですね……カーテン、でしょうか。でも、サイズ測らないといけないし。また今度にします」

「そうか。知り合いを紹介するよ。丁寧な仕事する人だから、話だけでも聞いてみてくれ」
「……本当に、何から何までお世話になりっぱなしで。何かお礼がしたいです。欲しいものとか、してほしいこととか……ありますか?」

心の中で真樹は叫ぶ。
君だ。君のすべてが欲しい。

けれど口にしたのは、静かな言葉だった。

「……君の時間をもらってる。それだけで十分だよ。だから……また一緒に過ごしてくれること、かな」

「そんなことでいいんですか?」
微笑む美和子に、真樹は頷いた。

そのとき、窓の外で雨の音が聞こえ始める。

「そろそろ行こう。送るよ」

美和子は素直に頷き、二人でカフェを出た。
外に出た途端、雨脚が激しくなる。

真樹はすぐに自分のジャケットを脱ぎ、美和子の頭にそっとかぶせた。
彼女の肩を引き寄せ、雨の中を足早に車へと向かう。

助手席のドアを開け、美和子が濡れないよう素早く押し込む。
自分は全身ずぶ濡れになりながらも。

「すみません……」と美和子が小さくつぶやく。

「俺がそうしたかったんだから、気にしないでくれ」

ふと彼女を見ると、スカートが濡れて脚に張りつき、輪郭が浮かび上がっていた。
真樹は息を飲み、視線を逸らす。

見てはいけない。けれど、見てしまう。

心がざわつく。
雨音をかき消すように、静かにエンジンをかけた。
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