25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました

美和子の引っ越し

家具屋巡りから2週間が過ぎた。

その間、真樹とのやりとりは引越しに関する実務的なものがほとんど。
それでも、どこかあたたかい空気を含んでいた。

「体調はどうですか?」と美和子が送れば、

「大丈夫だ。ありがとう。お礼は今度してもらう」
そんな返事と一緒に、犬がニンマリ笑うスタンプが届いた。

思わず、ぷっと吹き出す。

彼らしい、と感じた。

美和子の自宅マンションも無事に買い手が見つかり、引越しに向けての準備も順調だった。
思い切って、ほとんどのものを手放した。
今は、新しい暮らしに向けて心も部屋も軽くなっている。

今週末は、真樹が紹介してくれたカーテンデザイナーとの待ち合わせ。
まだ鍵は受け取っていなかったが、真樹が間に入ってくれたおかげで土曜日に受け取れることになっていた。

金曜の夜。
ベッドに入ろうとしていたとき、スマホが鳴った。

《夜分遅くにすまない。引越しの手筈はどうだ?運びこむものはどうするんだ?》

──一体どこまで優しいの、この人。

返信は明日の朝にしようかと一瞬迷ったが、既読スルーにはできなかった。

《真樹さん、こんばんは。お仕事お疲れ様です。そんなに荷物はないのですが、やはり私だけでは運べないので、白ネコ便を使おうと思っています。おやすみなさい》

送信して数秒。すぐに「既読」の表示がついた。

《なあ、今電話してもいいか?》

……えっ。
ちょっと迷ったが、《はい》と返信すると、すぐに着信が鳴った。

「美和子さん、こんばんは。まだ起きてたんだな?」

「はい……お疲れ様でした」

「明日、カーテンデザイナーと13時にアポがあるって言ってたよな? じゃあ午前中に荷物を運ぼう。10時に迎えに行く」

「えっ!? いえ、いいです、自分でなんとかしますから……これ以上ご迷惑は──」

「君、この前“お礼がしたい”って言っただろ?」

「……言いましたけど???」

「だったら、俺が君を手伝いたい。俺の好きにさせてくれるってことが、お礼になるんだよ」

「……はぁ〜、そうなの?」

「そう。だから、明日10時に迎えに行く。いいね。おやすみ」

一方的にそう言い残し、電話は切れた。

美和子はスマホを見つめたまま、ぽかんとする。

やっぱり、強引なひと。
でもその強引さに、少しだけ……心が温まってしまうのが、悔しい。

深く息を吐いて、ようやく眠りについた。

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