25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました

隣人だったの⁉

住めば都とは、よく言ったものだ。

新しい住まいは何もかもが新鮮で、毎日が密度濃く流れていく。
今週もよく働いた。今日は引っ越してから初めて迎える金曜日。美和子は、週末の散策を楽しみにしながら身支度を整える。

玄関を出て、エレベーターのボタンを押す。
ほどなく扉が開いた。

──そこにいたのは、スーツ姿の真樹だった。

「おはよう、美和子さん。どう? 新しい住まいの居心地は?」

「……おはようございます。ええ、快適ですよ」

心臓がドクンと跳ねた。どうしてここに真樹が?

「どうして真樹さんが、ここに?」

彼は当たり前のように上階を指さす。

「俺も、ここに住んでるから」

「え……⁉」

目を見開いた美和子に、真樹は平然と続ける。

「君と同じくらいの時期かな。ああ、だから家具屋に一緒に行ったとき、俺も欲しいって言ってたんだよ」

「あ……」

思わず言葉が漏れる。でも違う。言いたいのはそんなことじゃない!

「ちょ、ちょっと待ってください。どうして黙ってたんですか⁈」

美和子が詰め寄ると、真樹は眉一つ動かさず答えた。

「君から一度も、俺がどこに住んでいるか聞かれたことがなかったからな」

「…………え?」

「だから、言わなかっただけだ」

さも当然のように、さらりと。

その瞬間、エレベーターがロビーに到着する。

「悪いが、今日は予定が詰まっていて送ってやれない。気をつけて、じゃあまた」

そう言って真樹は颯爽と迎えの車に乗り込んだ。

──ぽかんと立ち尽くす美和子。

通勤途中、彼女の頭の中はぐるぐるしていた。

(何なのよあの人……!普通、「俺もここなんだ」って言うでしょ!?)

(ていうか、知ってたら絶対ここ契約してなかったし……偶然?いやまさか……)

(っていうか、何考えてるの私っ!?)

会社に着くころには、ため息が出るほどに疲れていた。
でも、ここで引きずってはいけない。深呼吸して、美和子は仕事モードに切り替える。
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