25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました

土曜日のデート

真樹は時計に目をやった。
「もう8時か。よく寝たな」

のびを一つしてベッドを抜け出すと、キッチンで冷たい水を一気に飲み干す。すぐさまトレーニングウェアに着替え、ランニングシューズを履いた。

体を動かすことは、彼の日課だ。
週に一度はプロのトレーナーについて鍛え、自宅にも各種マシンを揃えている。忙しい日々の中でも、身体のメンテナンスを怠ることはない。

外の空気は清々しかった。
週末の朝、人影はまばらで走りやすい。なにより、頬を撫でる風が心地よい。

小一時間のランニングを終えてマンションのエントランスに戻ると、そこに見慣れた姿があった。

「美和子、おはよう」

「真樹さん……おはようございます」

「どこか行くのか?」

手提げ袋を見て、自然と声が出た。

「ちょっと、コンビニに」

「またコンビニか?」

「……フレンチトーストが食べたくなっちゃって。卵が切れてて」

美和子が少し照れたように笑う。

「俺も食べたいな、フレンチトースト。……食べに行ってもいい?」

突然の申し出に、美和子は一瞬、目を丸くする。言葉は返ってこない。

「……ダメか?」

真樹が少しだけ残念そうに言うと、美和子はほんの一呼吸おいて、ぼそっと答えた。

「……いいですよ」

「ありがとう!」

真樹の顔がぱっと明るくなる。

「シャワー浴びてくる。腹、減ったなあ」

「うふふ……じゃあ、またあとで」

「うん。何か持っていくものあるか?」

「ないですよ。手ぶらでどうぞ」

「じゃ」

軽やかに手を振って、真樹はエレベーターへ。
美和子は、手提げを持ち直して歩き出す。

その背中に、そっと笑みが浮かんでいた。
そして、それは真樹の顔にも同じように――
思わずこぼれるような、優しい笑みがあった。
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