25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました

真樹の庇護欲

美和子がゆっくりと目を開けると、見慣れた天井が視界に入った。
(あれ…?私、昨夜はたしか真樹さんとソファで――)

昨夜の記憶が断片的によみがえる。心地よい温もりと、彼の静かな寝息。思わず頬がゆるむ。
――気づかぬうちに眠ってしまっていたのだ。きっと真樹さんが運んでくれたんだわ。

美和子は身を起こし、そっと寝室を出てリビングへと向かった。

そこに彼の姿はなく、代わりにきちんと折りたたまれたブランケットと、一枚の小さなメモがテーブルの上に置かれていた。

「昨晩はありがとう。
また連絡する。
ゆっくり休んで。」

見慣れた筆跡に、胸がふわりとあたたかくなる。

美和子はそっとメモに指を添え、微笑んだ。
その優しさが、静かに胸に沁みていく。

私、真樹さんのこと……たぶん、好き。
あんなふうに大切にされて、気にかけてもらって、嫌な気持ちになるわけがない。

わかってる。
彼の優しさも、覚悟も、あのまっすぐな視線も。
全部、嘘じゃないってことくらい。

でも――「男として好きか?」って問われたら、答えに詰まってしまう。
ううん、正直に言えば……わからない。
自分でも、どうしたらいいかわからない。

四十代後半にもなって、何を戸惑ってるんだろう。
まるで学生みたい。
そんな自分が、ちょっと情けなくもある。

信ちゃんがいなくなってから、私は恋愛なんて考えたこともなかった。
でも、心が枯れてたわけじゃない。
信ちゃんとは穏やかで、あたたかい時間をたくさん過ごした。
ちゃんと愛されていたって、今も思える。

でも――あの頃、こんなふうに心が揺れることってあったかな。
静かで、平穏で、安定していて。
不満なんてなかったけれど……こんなふうに、胸が締めつけられるような感情は、なかった気がする。

それが恋なのか、それともただの戸惑いなのか。
真樹さんのことになると、私はすぐに、わからなくなる。

彼の前では、素直になれない。
でも、拒絶もできない。
近づけば心が揺れて、離れると寂しくなる。

どうしたらいいんだろう。
どうしたいんだろう、私は――
< 72 / 102 >

この作品をシェア

pagetop