25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました

美和子の葛藤

本当は、してほしかった。

触れて、抱かれて、真樹のすべてを感じたかった。
優しさの奥にひそむ激しさも、その支配欲も、まるごと受け止めたかった。
愛されて、縛られて、真樹のものになりたかった。

けれど、怖かった。

もし、この夜にすべてを許してしまったら——
もう、引き返せない気がした。
自分の人生が、彼の熱に呑まれてしまいそうで。

ただでさえ、真樹には抗えない。
低く囁く声も、指先の一撫でも、簡単に心が崩れてしまう。
彼の熱と息遣いに包まれるたび、理性が削がれていく。
まるで、自分で自分を手放してしまうようで。
怖かったのは、身体じゃない。
真樹に、心の奥まで見透かされてしまうこと。
そしてそのまま、逃げ場もなく、取り込まれてしまうことだった。

「抱いて」なんて、言えるわけがなかった。
唇が震えて、声にならない。
欲しくてたまらないのに、どうしても言えない。

……それが、真樹の狙いなのだと、うすうす気づいていた。
あえて触れない。あえて最後までは踏み込まない。
それがどれほど自分を惑わせ、焦らし、追い詰めるか、彼は知っていてやっている。

ずるい。
でも、それでもいいと思ってしまう。
やめてとは思えない。
抗うどころか、もっと触れてほしいと願ってしまう。
真樹の腕の中は、あまりにも甘くて、あまりにも危うい。
だからこそ、求めずにはいられない。

愛されたいのに、怖い。
怖いのに、溺れていく。

このまま彼にすべてを委ねてしまったら——
もし、真樹の愛がほんの一時の熱情だったとしたら。
もし、過去を懐かしむ気まぐれだったとしたら。
その後に残される私は、どうなるの?

真樹はまだ一度も、「結婚」という言葉を口にしていない。
あの人にとって、私はどこまでの存在なのだろう。
その答えを確かめるのが、怖かった。

でももう、心は限界に近づいている。
この夜を超えてしまえば、きっと何かが変わる。
そしてその“変化”が、何よりも怖かった。

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