25年ぶりに会ったら、元・政略婚相手が執着系社長になってました

独占欲の芽生え

真樹と美和子の喧嘩の日以来、毎日、あの“儀式”は繰り返された。
真樹の都合で、夜が無理なら早朝。ランニングのあと、美和子の部屋に現れてシャワーを浴び、そのままベッドに入ってくる。

「……待って……」
囁いても、真樹の唇が首筋に触れれば、抗う気持ちはすぐに溶かされていく。

けれど、触れてほしいところには、決して触れない。
求めても、最後まではしてくれない。
それが毎日続くたび、美和子の中の渇きは、じわじわと膨らんでいった。

真樹の愛撫は優しい。けれどその穏やかさの奥に、抑え込まれた何かを美和子は感じていた。
物足りない。満たされない。
彼に抱かれているのに、どこか空虚だった。

それでも、美和子は毎回、同じように乱され、翻弄されていく。
気づけば、真樹を欲しがる気持ちが日に日に強くなっていた。
もっと深く繋がりたい。もっと激しく求めてほしい。

私を見て。
私だけを求めて。
私がいなければ、あなたは生きられないと思いたい。

そんな想いに突き動かされながらも、
それがすべて、真樹の策略だとは──美和子はまだ気づいていなかった。

甘く、優しく、じわじわと支配していく。
真樹の手のひらの上で、美和子の心は、確実に染められていくのだった。


抱いてしまえば、一時的に満たされる。
けれどそれでは意味がない。
一度与えてしまえば、美和子は安心する。俺のものだと錯覚して、逃げていくかもしれない。

……美和子は、愛されることに慣れてない。
本当に渇いているのは、体じゃない。
心だ。魂だ。

だからこそ、触れるだけにする。
欲しがらせたまま、満たさない。
優しく、丁寧に、焦らして、追い詰める。

甘く包み込むように、でも核心には触れない。
そのたびに、美和子の目が潤む。
どうして?という問いが、その瞳に浮かぶ。

気づかなくていい。
もっと欲しくなればいい。
もっと俺にすがるようになればいい。

庇護欲という名の檻を、俺は用意した。
守ってやる。癒してやる。尽くしてやる。
微笑みながら。

彼女はもう、俺のものだ。
そう体の、奥まで、記憶のすき間まで、すでに俺で満たされている。
けれど、それを“自分で認めさせる”ことが肝心なんだ。

檻の鍵は、俺じゃなく、美和子自身に閉めさせる。
「ここにいたい」と、自分の意志で言わせるために。

だから、最後までは抱かない。
触れて、焦がして、渇かせて。
欲望で滲ませながら、決して与えきらない。

求めさせる。
俺に“満たされたい”と、心から願わせる。

その瞬間、美和子は逃げられなくなる。
俺に──俺だけに愛されたい女へと変わる。

そうなって初めて
本当の意味で、俺のものになる。
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