Love Potion

〜開始〜 加賀宮迅side

 来客用に借りているマンションに九条孝介の浮気相手である、飯田美和(いいだみわ)という家政婦を俺は呼び出していた。
 俺の家政婦として契約をするためだ。

「すみません。急にお願いすることになって。助かります」
 シリウスの社長として、偽りの自分を演じる。

「いえ。でも、どうして私なんですか?」
 
 写真や映像で見たことはあるが、実物を見たのは今日が初めてだった。
 孝介(あいつ)は、この女に好意を抱いている。
 どこが良いのか俺にはわからないけど。
 容姿か?
 綺麗だと言われればそうなんだろうけど、特別感は感じない。

「実は僕、家政婦さんを雇ったことがなくて。自分のプライベートな空間に、知らない人を入れるってなんとなく不安だったんですが、最近忙しくて。掃除とかできないのが現状で、信頼できる家政婦さんがいないかなって探していたら、九条社長に紹介してもらったんです。正直、こんなに綺麗な家政婦さんだなんて思いませんでした」

 興信所の調査でどこのサービス事業者の家政婦かすでに把握はしていたが、怪しまれないように、九条社長にはチラッと家政婦の話をしておいた。

「そんなこと、ないです」
 彼女は俺のお世辞にニコッと笑ってくれた。
 
 家政婦に依頼したい内容を伝える。
 本当に住んでいるわけではないため、掃除くらいしかすることはない。

「わかりました。基本的にお掃除をすれば良いんですね」

「はい。お願いします。あっ、あと。本当はいけないことかもしれませんが、僕も孝介さんと同じように、美和さんって呼んでも大丈夫……ですか?」

 家政婦は一瞬目を見開いた。
 いきなりすぎたか?
 本当はもっとゆっくりこの女を落としていくつもりだったけど、時間がない。美月をこれ以上傷つけたくない。孝介(あいつ)も何するかわからないし。

「あっ。はい」
 いいのか。

「良かった」
 自然と口角が上がった。

「それで、美和さん。もし良かったらの話なんですが、このあと、何か予定とかはありますか?急な依頼を受けてくださったお礼に、食事でもご馳走できたらと思って。個人的な誘いを含んでいるので、美和さんの会社には内密にしてほしいんですが」

 これも一種の賭けだな。
 普通だったら断るところ、この女はどう出るだろう。
 難しいと思ったが、家政婦の目が輝いていくのがわかった。

「あっ。はい。私で良かったら。お仕事だと思って来てしまったので、その……。洋服が……」

「嬉しいです!ありがとうございます。では、ご自宅の最寄り駅まで後ほど迎えに行きますので、気になるようでしたら着替えて来てもらえれば……」

「わかりました」
 時間を指定すると、彼女は満面の笑みで部屋を後にした。
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