Love Potion

対決

 孝介に殴られた次の日。
 彼が出勤する時と同じ時間に起きてくることはなかった。
 今日に限って仕事が休みなんだ。胃が痛くなりそう。
 
 私はベガに出勤だけど、案の定、鏡で顔を見ると腫れていた。
 それほど酷くはないけど、お化粧すると痛いし、マスクをして隠して行こう。

 ベガに出勤すると
「あれ?風邪ですか?」
 マスク姿の私を見て、藤原さんに訊ねられた。

「喉が枯れている気がして。乾燥するといつもそうなんです。保湿のために付けてます」
 本当は何も問題はない。

「ええっ!それは大変。私、本部に連絡するんで今日は休んでください!」
 
 えっ、いきなり!?

「あっ、でもこの間もお休みいただいたばかりで。いつものことなので、気にしないでください。熱とか、風邪症状は特にないですから」

 この間、急遽フロアーを手伝った時にもお休みをもらっている。
 それに、今日家に帰ったら孝介も居るし。帰りたくない。

「《《慣れない仕事で》》疲れてると思います。もしかしたら風邪かもしれないので!私から連絡しとくんで大丈夫ですよ!」

 藤原さんは私の話を聞いてくれない。
 どんどん職員通用口へ追いやられている。
 今日は平野さんもお休みみたいだ。
 
 この間の藤原さん(彼女)の言葉を思い出し、極力私に関わりたくないんだと肌で感じてしまった。彼女の勢いに負けて、お店の外に出てきてしまった。

 どうしよう、迅くんに相談……。
 ううん、仕事忙しいよね。亜蘭さんなら電話、出てくれるかな。

 数回のコールの後、亜蘭()は電話に出てくれた。

<お疲れ様です。どうしましたか?>

「お疲れ様です。あっ、えっと。今、話しても大丈夫ですか?」

<はい。大丈夫です>

「あの、実は……」
 私が話を続けようとした時――。
 一瞬、電話越しに迅くんの声がした。

<ちょっ!待ってください。今代わりますから>

「えっ?」

 迅くん、近くに居るのかな。

<美月。なんで亜蘭に電話すんの?>
 あっ、迅くんだ。

「だって、忙しいと思って。仕事のことだし、下っ端がいきなり社長に電話するって普通はあり得ないでしょ」

<美月はいいんだよ>

「えっ?」

<美月は特別。もし出れなかったら絶対かけ直すから。緊急だったら亜蘭でいいけど>

 特別。
 そんなこと言われて、ドキッとしてしまう自分がいた。

<で、どうした?>

「あのね……」
 私は迅くんに事情を説明した。

<大丈夫か?また顔、腫れてるんだろ?>

「大丈夫。そんなに腫れてないし。この前より痛くない気がする」

 医者に行くほどでもないし、ただカフェ(ベガ)に協力できないことを悔む。マスクなんかじゃなくて、もっと良い方法があったかもしれない。

<んー。ベガのことはわかった。行かなくていい。俺のオフィスに来れる?迎えに行くから。美月のこと心配だし、家に帰っても暴力夫と家政婦の組み合わせだろ?今帰ってもどうせ文句言われるだけだ。時間来るまでオフィス(そこで)休んでな>

 冷静に最善を考えてくれる彼、味方だとわかったらなんて心強いんだろう。
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