Love Potion

〜過去〜 加賀宮 迅side

…・――――…・―――
「そんなところで何してるの?」

 ここは……。
 なんだ、過去の夢か。

 幼い頃の俺は、公園の遊具として設置されているトンネルの中に入り、膝を抱えていた。

 トンネルの先、明るい光が漏れているところから、声をかけてくる女の子が居た。

 話す気力もない。
 誰とも関わりたくなくて、その子の問いに答えなかった。

 しかし――。

<ゴロゴロゴロ……>

 空腹のためか、腹の音が鳴った。少し恥ずかしい。

「ねえ、お腹空いてるの?」
 返事をしない俺に、その子はまだ話しかけてくる。
 何も言わなかったら、どっかに行くだろう。

 家に帰りたくない。
 帰ったらどうせまた《《あんなこと》》される。
 ここで時間を潰しているのが、一番の平和だ。

 どのくらいの時間、そこに居ただろう。
 考えることもなく、ただ時間が過ぎるのを待っていた。

 その時、近くで人の気配がした。
 チラッと相手を見る。

「はいっ!半分こしよ?私のおやつ、持ってきた!」

 先程の女の子がすぐ近くに居た。
 はいっと差し出されたのは、菓子パンだった。

 本当は甘えたくはない。
 が、空腹に耐え切れず、パッと女の子の手からパンを奪い取るようにして受け取った。

「これ、美味しいでしょ?私の好きなパンなの」
 俺の態度など気にしない様子で、彼女は微笑みかけてくれた。

「おいしい」
 ただ一言、返事をしただけなのに
「うん!おいしいね!」
 目をまん丸くして、女の子はへへっと声を出して笑ってくれた。


 それからその子と仲良くなった。

「私の名前は、美月(みつき)だよ!」
 
 自分から名前を教えてくれた。
 俺は引っ越してきたばかりだったが、美月は昔からこの公園の近くに住んでいるらしい。歳は二歳ほど俺の方が上だと言っていた。

「迅くん、みーつけた」

 俺がいつものトンネルの中に居ると、美月は必ず声をかけてくれる。
 そして
「一緒に食べよ?」
 自分の家から持ってきたであろう、食べ物を分けてくれる。

 俺が無言でいても
「あのね、今日は小学校でねー?」
 必ず今日の出来事を話してくれる。
 最初は煩わしいと感じていたその話も、今では可愛いと思えてしまう日課になっていた。
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