満月に引き寄せられた恋〜雪花姫とツンデレ副社長〜
第2章 雪花の芽を摘む者

1話 忍び寄る魔の手

初出勤の日。フレキシブルタイムもあるとは聞いていたけれど、私はきっちり定刻通りに出社した。

企画部デザイン課は、少人数のわりに広々とした部屋があてがわれていた。きっと、それぞれの作業に集中できるよう、個々の空間を保てるように配慮されているのだろう。

デザイン課のチーフは、40代半ばの働くママさんの瀬川さん。まずは彼女から、デザイン室の案内や必要と思われる会社のことについて一通り説明を受けた。

現在、デザイン課には私を含めて三人──チーフの瀬川さんと、男性社員の倉本さん(30歳)。私の前任の方は、個人的な理由で退職されたそうだ。

 

お昼はチーフと一緒に社員食堂でとり、午後イチから始まるプロジェクト会議の準備をしていたときのことだった。

背中に、冷たい視線を感じた。

高圧的な態度で、こちらを値踏みするような目。

……、えっ? もしかして、あの人が倉本さん?

とりあえず挨拶だけでもしておこうと、彼のデスクに向かう。

 
「初めまして。本日から配属になりました、空月彩巴です。よろしくおね──」

「ああ、君が新しい子? 知ってる。ここ、離職率が高くてね。君も無理しないで、どんどん僕を頼ってくれていいから。……、まあ、君よりデザインの経歴は長いしね」


挨拶を遮られただけでも不快だったのに、その言い方……、なんだろう、このモヤッとする感じ。

気持ちを切り替えようとエレベーターホールへ向かう途中、瀬川チーフと再び会った。これから会議室へ行く旨を伝えると、彼女はふっと微笑んだ。


「お米の袋のデザインね。楽しんできて。……、ねえ、もう倉本くんと会った?」


しまった。ムッとした顔、出てたかもしれない。
さっき挨拶は済ませたことを伝える。


「そっか、もう会ったんだね……。彩巴ちゃん、もし不審なことや嫌なことがあったら、どんなに小さなことでも、すぐに教えてね?」

 
そのタイミングでエレベーターが到着し、会話はそこまでになった。

エレベーターに乗り込んでから、私はさっきのことを反芻(はんすう)する。

倉本さんの、あの態度。
チーフの、あの含みのある言い方。

このデザイン課、一体なにがあるの?

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