この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜
捜査
「社長、おはようございます。深月です。お休みの日に申し訳ありません」

翌朝、土曜日の十時。
凛香は社長の仕事用のスマートフォンに電話をかけていた。

『おはよう、深月さん。昨日はお疲れ様。珍しいね、休みの日に。なにかあったんだね?』
「はい」
『よくないニュースなのは覚悟しよう。どうした?』

凛香は社長の気づかうような雰囲気に背中を押され、思い切って話し始める。

「昨夜、懇親会を終えて社長をお見送りしたあと、ホテルのロビーで黒岩副社長をお見かけしました。見知らぬ女性とご一緒で……」

言葉を濁すと、小さくため息が聞こえてきた。

『もしや、客室を使われた?』
「はい、そのようです。張り込んでいた刑事さんたちが、二人が部屋に入る映像を防犯カメラから記録したそうです」
『そうか。これまで疑念はあったんだが、問い正すだけの証拠はなくてね。それで、警察の方はなんと?』
「今後は不正アクセスの件と合わせて、副社長を横領の容疑で調べたいと。近いうちにオフィスを訪れて、鮎川社長に事情をお聞きしたいとのことでした」
『なるほど、わかった。スケジュールを調整して、先方に連絡してくれるかな? 私もなるべく早いうちに、お話しをさせてもらいたい』

承知しましたと答えると、社長は申し訳なさそうに続ける。

『悪いね、深月さん。私が不甲斐ないばかりに、君にまでこんな迷惑をかけてしまって』
「いえ! とんでもない。私は少しでも社長をお支えしたいと思っております」
『ありがとう。若い世代の君に、親子ほど歳の離れた役員がみっともない姿をさらすなんて。社長として情けなく、申し訳ない気持ちでいっぱいだよ。少しでも早く事態を収束させる。会社と社員を守るためにも』
「はい。私もできる限り尽力いたします」
『君にはいつも感謝しているよ。本当にありがとう。警察とのやり取り、よろしく頼む』
「かしこまりました。日程が調整でき次第、ご連絡いたします」
< 23 / 89 >

この作品をシェア

pagetop