この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜
大きな腕の温もり
「深月さんに聞きたいのは、黒岩に関することですね。普段どんな仕事をしているのか、社内で親しい人は誰か。黒岩に頭が上がらず、言いなりになっている部下はいないか。社内に限らず、他の企業との繋がりがあれば、それも」
凜香は考えながら慎重に答えていく。
「黒岩副社長は、普段は本社にいないことの方が多いです。関連企業を回ったり、取引先を訪問していると表向きには言っていますが、どこまで本当かはわかりません。副社長秘書は私の先輩の男性秘書ですが、なにか用がある時だけ電話がかかってくるそうです。大抵、新幹線や飛行機のチケットを手配したり、ホテルや料亭を予約したり、といった用件です。副社長と行動を共にしている人はいません。移動も、主にタクシーを使っています。社内で親しい人は……、思い当たらないです。どちらかと言うと疎まれる存在ですね。言いなりになっている部下は、いると思います。副社長は機嫌が悪くなると怒鳴り散らして『クビにするぞ』とか『地方に飛ばすぞ』と脅すので、それを恐れて顔色をうかがったり。他の企業との繋がりは、まったくわかりません。それから最後に……」
一度言葉を止めてから、凛香は思い切って口を開く。
「経理部に、副社長を恐れていいなりになるような人はいません」
「……なぜそう言い切れる?」
低い声で問いかける礼央と、凛香は真っすぐ視線を合わせた。
「あの部署は、たとえ相手が社長であろうとも正しいことをきちんと告げる社員しかいません。まるで別の会社のように、ワンアクト全体を冷静に俯瞰的に捉えている人たちです。だから私たちは安心して働ける。それが我々ワンアクトの誇りです。でも……、もう言い切れないのですね。私たちの会社にやましいことはない、と」
口にすると、涙が込み上げそうになった。
ワンアクトは、もはや犯罪に染まった会社なのだ。
ずっと大切にしてきた仕事も仲間も社長も、世間から後ろ指をさされる存在になってしまった。
もちろん、自分も。
「深月さん」
礼央に呼ばれて凛香は顔を上げる。
「あなたたちの会社は必ず守る。我々はそのためにここにいる」
力強く真っすぐに見つめられ、凛香は言葉を失った。
矢島も凛香に力強く語りかける。
「深月さん、裁きを受けるべきは犯人だけです。我々刑事は、必ず犯人を探し出して捕まえる。そして朝比奈さんたち検事が、必ず起訴して法の裁きを受けさせます。どうか信じていてください」
「……はい。よろしくお願いします」
声を震わせて頭を下げる凛香に、礼央と矢島は優しく頷いた。
凜香は考えながら慎重に答えていく。
「黒岩副社長は、普段は本社にいないことの方が多いです。関連企業を回ったり、取引先を訪問していると表向きには言っていますが、どこまで本当かはわかりません。副社長秘書は私の先輩の男性秘書ですが、なにか用がある時だけ電話がかかってくるそうです。大抵、新幹線や飛行機のチケットを手配したり、ホテルや料亭を予約したり、といった用件です。副社長と行動を共にしている人はいません。移動も、主にタクシーを使っています。社内で親しい人は……、思い当たらないです。どちらかと言うと疎まれる存在ですね。言いなりになっている部下は、いると思います。副社長は機嫌が悪くなると怒鳴り散らして『クビにするぞ』とか『地方に飛ばすぞ』と脅すので、それを恐れて顔色をうかがったり。他の企業との繋がりは、まったくわかりません。それから最後に……」
一度言葉を止めてから、凛香は思い切って口を開く。
「経理部に、副社長を恐れていいなりになるような人はいません」
「……なぜそう言い切れる?」
低い声で問いかける礼央と、凛香は真っすぐ視線を合わせた。
「あの部署は、たとえ相手が社長であろうとも正しいことをきちんと告げる社員しかいません。まるで別の会社のように、ワンアクト全体を冷静に俯瞰的に捉えている人たちです。だから私たちは安心して働ける。それが我々ワンアクトの誇りです。でも……、もう言い切れないのですね。私たちの会社にやましいことはない、と」
口にすると、涙が込み上げそうになった。
ワンアクトは、もはや犯罪に染まった会社なのだ。
ずっと大切にしてきた仕事も仲間も社長も、世間から後ろ指をさされる存在になってしまった。
もちろん、自分も。
「深月さん」
礼央に呼ばれて凛香は顔を上げる。
「あなたたちの会社は必ず守る。我々はそのためにここにいる」
力強く真っすぐに見つめられ、凛香は言葉を失った。
矢島も凛香に力強く語りかける。
「深月さん、裁きを受けるべきは犯人だけです。我々刑事は、必ず犯人を探し出して捕まえる。そして朝比奈さんたち検事が、必ず起訴して法の裁きを受けさせます。どうか信じていてください」
「……はい。よろしくお願いします」
声を震わせて頭を下げる凛香に、礼央と矢島は優しく頷いた。