この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜
決着
「朝比奈さん、鮎川社長がお見えです」

病室のスライドドアが開き、矢島が鮎川と共に静かに入ってきた。
ベッドの横の椅子に座り、凜香の手を握りしめていた礼央は、顔を上げて立ち上がる。

「朝比奈さん、彼女の容体は?」

鮎川が心配そうに凜香の顔を覗き込む。

「重度の熱中症でしたが、今は体温も平熱に下がり、落ち着いています。しばらくこのままゆっくり寝かせるようにと」
「わかりました。朝比奈さん、彼女を助けてくださって、本当にありがとうございました」
「いえ。今回の事件は我々の落ち度によるものです。黒岩から全て吐かせていれば、彼女をこんな目に遭わせずに済んだ。申し訳ありませんでした」

礼央は姿勢を正してから深く腰を折って頭を下げた。

「そんな、やめてください。あなたは彼女の命の恩人です。私はなにもできなかった。彼女を守ると誓ったのに、結局なにひとつ、私は……」

肩を震わせながら声を詰まらせる鮎川から、礼央はなにかを感じ取る。
それはきっと、彼女への特別な想い……。

やがて鮎川は静かに礼央に向き直った。

「どうか彼女をよろしくお願いします、朝比奈さん」

そう言ってお辞儀をすると、鮎川は身を翻し、足早に病室をあとにした。
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