この手に愛と真実を〜クールな検事の一途な想い〜
愛を知る時
凛香の退院の日。
礼央は自宅マンションに送り届けるため、病室を訪れた。

「わざわざすみません、朝比奈さん。お仕事、大丈夫ですか?」
「問題ない。黒岩の件も俺ができることは全て終わった」
「そうですか」

黒岩は起訴されることが決まり、これから法定で裁きを受ける。
本人は無罪を主張するつもりだろうが、礼央と矢島は確かな証拠を確実に集めていた。
常務にも、凛香の生命を危うくした罪を償わせる。
あとは裁判で戦うだけだ。
当然、負けはしない。

「それからこれ、君の着替えだ。以前と同じ女性警官に用意してもらったから、サイズは合うと思う」
「ありがとうございます、助かります」

そう言って紙袋を受け取った凛香は、小さく「またラブリーなのかな」と呟く。

「どうかしたか?」
「いえ、なにも」
「そうか。じゃあ俺は退院の手続きをしてくる」
「はい、ありがとうございます」

一旦病室を出て一階に下り、支払いを済ませてからまた戻った。
荷物をまとめていた凛香が顔を上げる。
えっ……と、礼央は思わず立ち止まった。
ペイルピンクの、袖とスカートが軽やかに揺れるワンピースを着た凛香が、ふわりと笑顔を浮かべる。
女の子らしい可憐な姿に、礼央はドキッとした。

「朝比奈さん、手続きありがとうございました」
「ああ、いや」

さり気なく視線をそらして、凛香の手から荷物を受け取った。

「行こう。駐車場まで歩けるか?」
「ふふっ、歩けなかったらどうするんですか?」
「それは、まあ、抱えていくしか」
「重いですよ? 私」
「検察官をなめるな。どうってことない」
「えっ、刑事さんならわかるけど、検事さんですよね? なのに身体を鍛えてるんですか?」
「俺はな。矢島は知らん」

あはは!と凛香は明るく笑う。

「確かに。見た目は朝比奈さんの方が刑事さんっぽくて、矢島さんが検事さんみたい」
「あいつは単なるゲームオタクだ」
「ああ、なるほど。そっか!」
「ほら、行くぞ」

はい!と凛香は笑顔を弾けさせる。
礼央は一瞬目を細めてから、一歩先を歩き始めた。
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