ダイエットなんてできません - 地味系プログラマーとワイルド系SE
第一章:メイクと恋の第一歩
第一話 「ダイエットは明日から」
「やっぱり、そうなるよね」
日曜の夜。シャワーを浴びたあと、西山穂花はヘルスメーターに乗って、ため息をついた。
56キロ。過去最高記録だ。予想はしていた。していたけれど、いざ目の当たりにするとショックで、数字を二度見してしまった。
身長は155センチ。BMI的にはギリギリセーフかもしれないけれど、これはさすがにまずい。
穂花は、お菓子を食べながらWEB小説を読むのが大好き。
仕事中も、「頭使うから」と自分に言い訳して甘いものをつまんでいる。――それで太らないわけがない。
――明日からは、ダイエットしないと……
そう決意して、穂花はベッドにもぐりこんだ。
◇◇
月曜日。
いつもの席に着いた穂花は、PCの電源を入れる。
くすんだピンクのカーディガンに、紺の無地スカート。肩下までのダークブラウンのセミロングヘアは、低いポニーテールにささっと束ねる。飾り気はないけれど、彼女なりの“落ち着く”スタイルだ。
穂花は、24歳。IT系の短大を卒業し、大手金融グループのシステム会社で技術派遣として働いているプログラマーだ。童顔でメイクも最低限。そのせいで、新人と間違われることもしばしば。
未読メールをざっと確認したあと、進行中の機能追加案件に取りかかった。小規模ながら仕様がややこしくて、気を抜けない作業だ。
10時になるころ、隣の席からガサガサと袋の音が聞こえてくる。
「じゃーん。横浜のお土産だよ」
同僚の沢村夏希が、パッケージを掲げながら声をかけてきた。箱のふたを開けると、女の子のシルエットが描かれたラングドシャが並んでいる。
「穂花の好きなラングドシャだよ」
そう言って、机の上に三枚、ぽんぽんと置いていく。
――うう……なんで、ダイエット初日に限って……
穂花が目を泳がせていると、夏希が怪訝そうにのぞきこんできた。
「あれ、どうしたの?」
「あ、いまダイエット中で……」
「なに言ってるのよ。この仕事には糖分補給が必要って、穂花が一番言ってるじゃん」
――結局、お昼になる前に、全部食べてしまった。
お菓子の甘い誘惑には、やっぱり勝てません。
◇◇
昼休み。穂花は夏希とふたり、社内のカフェテリアでランチをしていた。
「横浜って、週末は彼とデートだったの?」
小鉢のポテトサラダをつつきながら、穂花が何気なく尋ねる。
「うん。中華街でランチして、そのあと港の見える丘公園でバラ見てきたの。今ちょうど見頃でさ」
夏希はスマホを取り出し、写真フォルダを開いて見せてくる。
画面には、真紅や淡いピンク、白のバラが咲き誇る花壇やアーチの写真が次々と映し出されていく。
「うわあ……本当にきれい」
思わず穂花が見入っていると、次に現れたのは、バラのアーチの下のベンチで、仲睦まじく並ぶふたりの姿だった。
穂花ははっとして、目を細める。
「……きれいね。いいなあ……」
小さなため息とともに、胸の奥にぽつんと灯る、羨望にも似た感情が静かにこぼれ落ちた。
夏希の彼――間々田秀樹は、同じシステム会社に大手ITベンダーから常駐しているSEで、預金業務チームのリーダー。
眼鏡の奥の穏やかな目元が印象的な、インテリ系のイケメンだ。
夏希がストレートなアプローチで勝ち取った、堂々たる“成果”である。
「ねえ、穂花。三田村さんのこと、ちょっと気になってるでしょ?」
三田村隆二、間々田さんと同じ常駐SEで、融資業務チームのリーダーだ。
「なによ、いきなり……そんなこと……」
「その羨ましそうな顔。その裏に何があるかくらい、分かるんだから」
――図星だった。
夏希と間々田が並んで座る写真を見たとき、頭をよぎったのは、三田村隆二の姿だった。
日曜の夜。シャワーを浴びたあと、西山穂花はヘルスメーターに乗って、ため息をついた。
56キロ。過去最高記録だ。予想はしていた。していたけれど、いざ目の当たりにするとショックで、数字を二度見してしまった。
身長は155センチ。BMI的にはギリギリセーフかもしれないけれど、これはさすがにまずい。
穂花は、お菓子を食べながらWEB小説を読むのが大好き。
仕事中も、「頭使うから」と自分に言い訳して甘いものをつまんでいる。――それで太らないわけがない。
――明日からは、ダイエットしないと……
そう決意して、穂花はベッドにもぐりこんだ。
◇◇
月曜日。
いつもの席に着いた穂花は、PCの電源を入れる。
くすんだピンクのカーディガンに、紺の無地スカート。肩下までのダークブラウンのセミロングヘアは、低いポニーテールにささっと束ねる。飾り気はないけれど、彼女なりの“落ち着く”スタイルだ。
穂花は、24歳。IT系の短大を卒業し、大手金融グループのシステム会社で技術派遣として働いているプログラマーだ。童顔でメイクも最低限。そのせいで、新人と間違われることもしばしば。
未読メールをざっと確認したあと、進行中の機能追加案件に取りかかった。小規模ながら仕様がややこしくて、気を抜けない作業だ。
10時になるころ、隣の席からガサガサと袋の音が聞こえてくる。
「じゃーん。横浜のお土産だよ」
同僚の沢村夏希が、パッケージを掲げながら声をかけてきた。箱のふたを開けると、女の子のシルエットが描かれたラングドシャが並んでいる。
「穂花の好きなラングドシャだよ」
そう言って、机の上に三枚、ぽんぽんと置いていく。
――うう……なんで、ダイエット初日に限って……
穂花が目を泳がせていると、夏希が怪訝そうにのぞきこんできた。
「あれ、どうしたの?」
「あ、いまダイエット中で……」
「なに言ってるのよ。この仕事には糖分補給が必要って、穂花が一番言ってるじゃん」
――結局、お昼になる前に、全部食べてしまった。
お菓子の甘い誘惑には、やっぱり勝てません。
◇◇
昼休み。穂花は夏希とふたり、社内のカフェテリアでランチをしていた。
「横浜って、週末は彼とデートだったの?」
小鉢のポテトサラダをつつきながら、穂花が何気なく尋ねる。
「うん。中華街でランチして、そのあと港の見える丘公園でバラ見てきたの。今ちょうど見頃でさ」
夏希はスマホを取り出し、写真フォルダを開いて見せてくる。
画面には、真紅や淡いピンク、白のバラが咲き誇る花壇やアーチの写真が次々と映し出されていく。
「うわあ……本当にきれい」
思わず穂花が見入っていると、次に現れたのは、バラのアーチの下のベンチで、仲睦まじく並ぶふたりの姿だった。
穂花ははっとして、目を細める。
「……きれいね。いいなあ……」
小さなため息とともに、胸の奥にぽつんと灯る、羨望にも似た感情が静かにこぼれ落ちた。
夏希の彼――間々田秀樹は、同じシステム会社に大手ITベンダーから常駐しているSEで、預金業務チームのリーダー。
眼鏡の奥の穏やかな目元が印象的な、インテリ系のイケメンだ。
夏希がストレートなアプローチで勝ち取った、堂々たる“成果”である。
「ねえ、穂花。三田村さんのこと、ちょっと気になってるでしょ?」
三田村隆二、間々田さんと同じ常駐SEで、融資業務チームのリーダーだ。
「なによ、いきなり……そんなこと……」
「その羨ましそうな顔。その裏に何があるかくらい、分かるんだから」
――図星だった。
夏希と間々田が並んで座る写真を見たとき、頭をよぎったのは、三田村隆二の姿だった。
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