ダイエットなんてできません - 地味系プログラマーとワイルド系SE
第四章:恋と成長の積み重ね

第一話 「美容院」

 次の週の月曜日、最初のバックログ案件を仕上げた穂花は、会社帰りに行きつけの美容室に行くことにした。
 自宅マンションのある江古田駅の改札を出て、そのまま駅前通り沿いにある美容室へと足を向ける。
 二ヶ月に一度のペースで通っている美容室だが、今日はなんとなくいつもより心が浮いていた。

「こんにちは~」
 扉を開けると、いつもの担当・シンジが手を振って迎えてくれた。派手すぎず、けれどどこか“おしゃれ上級者”な雰囲気をまとった美容師だ。

「お、穂花ちゃん、メイク変えた?なんか……目元の雰囲気とか違う」
「え、分かります?」
「そりゃ分かるよ。なんか今日、表情明るいし。いいことあった?」
「……まあ、ちょっとだけ」
 鏡越しに、照れ隠しの笑顔を浮かべる。

「よし、じゃあ今日も前回と同じ感じで――って思ったけど、変えてみない?」
「変える……髪型、ですか?」
「うん。メイクに合わせて、ちょっと雰囲気チェンジするのもアリだよ?」

 ――メイクのときもプロに任せて正解だったし、ここも任せてみよう。

「おまかせします。似合う感じで、お願いします」
 シンジの目が輝いた。
 
「きた! この一言、めっちゃ燃えるわ〜。カラーも変えていい?」
「はいっ」

 カットが進み、髪は肩ギリギリの長さに。
 カラーは落ち着きのあるサンドベージュ。光を受けてふんわり柔らかい。

「ひし形シルエットのロングボブにしよう。毛先をゆるく外ハネでね。顔周りはふわっと柔らかく」

 ドライヤー、そしてアイロン。
 仕上がりに、息を呑んだ。

 ――これ…ほんとに私?

 鏡の中の自分は、頬がきゅっと引き締まり、動きのある髪が目元のメイクと調和していた。

「どう? イメチェン成功でしょ?」
「……はい。すごく気に入りました」

 その笑顔は、前よりも確かに強く、自信に満ちていた。
 ――彼にも、これで会いたい。
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