ダイエットなんてできません - 地味系プログラマーとワイルド系SE
第三話 「紫陽花」
日曜日の朝。
新宿駅の南口、改札の横の柱にもたれながら、穂花はスマホの画面をちらちらと確認していた。
約束の時間ちょうど、改札の向こうから隆二が現れる。
「おはよう」
「おはようございます」
隆二は、淡いグレージャケットに白のカットソー、スリムなデニムを合わせていた。
いつものワイルドさの中に、どこか品のある雰囲気が混じっている。
「髪、変えたんだね」
ふいに言われて、穂花は少し驚いたように目を見開いた。
「あ……はい。似合ってますか?」
「うん。すごく似合ってるよ。柔らかい感じが、穂花さんらしい」
――うれしい。けど、面と向かって言われると、ちょっと恥ずかしい。
穂花は小さく笑いながら、前髪をそっと耳にかけた。
「じゃ、行こっか。鎌倉までは湘南新宿ラインで一本だから、楽だよ」
二人は電車に乗り込み、横並びの座席に腰を下ろす。
車内は日曜の朝らしく落ち着いていて、向かいの席には若いカップルが小声で話していた。
◇◇
鎌倉駅で乗り換え、北鎌倉へ。
石畳の道を進みながら、木々の間からこぼれる日差しと、淡い紫や青の紫陽花が目を引く。
明月院の正門をくぐると、路の両脇には鮮やかな青い紫陽花があふれるくらいに咲き誇っていた。
「うわあ……きれい」
思わず声がこぼれる。
――まるで、別世界みたい。
「本当だね。写真、撮ろうか?」
隆二がスマホを取り出し、穂花のほうにレンズを向ける。
「えっ、私?」
「せっかくだし、一枚は」
ぎこちなく笑う穂花に、隆二が「もう少しこっち」と軽く手を添える。
パシャ。画面に写ったのは、紫陽花に囲まれた穂花の、少し照れた笑顔だった。
「次は俺の番かな」
「じゃ、私が撮ります」
穂花もスマホを構えたそのとき、近くで自撮りに苦戦していたカップルの女性が声をかけてきた。
「すみません、お二人ってご一緒ですか? よかったら、写真撮り合いません?」
「え、あ……はい、いいですよ」
穂花は少し戸惑いながらも頷き、女性からスマホを受け取って、彼女とその彼氏を紫陽花の前で撮ってあげた。
「ありがとうございます! じゃあ今度は、私が撮りますね」
女性が穂花のスマホを受け取り、二人が並ぶよう促してくれる。
咲き誇る紫陽花の中、少し距離をとって立った穂花に、隆二がそっと寄る。
カシャ。数枚撮ってもらい、にこやかにお礼を言ってスマホを受け取った。
画面には、紫陽花に囲まれて並ぶ二人の笑顔。
穂花は、自然と頬が緩むのを感じた。
――いつの間に、こんなふうに一緒に笑えるようになったんだろう。
ふいに、夏希の写真を思い出す。
薔薇園で、満開の薔薇に囲まれて笑っていた、彼女と秀樹の姿。
あのときは、ただうらやましくて、自分には遠い世界だと思っていた。
でも今、こうして紫陽花の中にいる自分も、隆二と並んで笑っている。
花の色は違っても、心に咲いているものは、きっと――同じ。
◇◇
道沿いの小さな竹林を抜けていく。
風に揺れる笹の葉の音が、心地よいBGMのように耳に広がる。
「ここ、来てよかったですね」
「うん。穂花さんと来られて、よかった」
その一言に、穂花の胸がふわっと温かくなった。
新宿駅の南口、改札の横の柱にもたれながら、穂花はスマホの画面をちらちらと確認していた。
約束の時間ちょうど、改札の向こうから隆二が現れる。
「おはよう」
「おはようございます」
隆二は、淡いグレージャケットに白のカットソー、スリムなデニムを合わせていた。
いつものワイルドさの中に、どこか品のある雰囲気が混じっている。
「髪、変えたんだね」
ふいに言われて、穂花は少し驚いたように目を見開いた。
「あ……はい。似合ってますか?」
「うん。すごく似合ってるよ。柔らかい感じが、穂花さんらしい」
――うれしい。けど、面と向かって言われると、ちょっと恥ずかしい。
穂花は小さく笑いながら、前髪をそっと耳にかけた。
「じゃ、行こっか。鎌倉までは湘南新宿ラインで一本だから、楽だよ」
二人は電車に乗り込み、横並びの座席に腰を下ろす。
車内は日曜の朝らしく落ち着いていて、向かいの席には若いカップルが小声で話していた。
◇◇
鎌倉駅で乗り換え、北鎌倉へ。
石畳の道を進みながら、木々の間からこぼれる日差しと、淡い紫や青の紫陽花が目を引く。
明月院の正門をくぐると、路の両脇には鮮やかな青い紫陽花があふれるくらいに咲き誇っていた。
「うわあ……きれい」
思わず声がこぼれる。
――まるで、別世界みたい。
「本当だね。写真、撮ろうか?」
隆二がスマホを取り出し、穂花のほうにレンズを向ける。
「えっ、私?」
「せっかくだし、一枚は」
ぎこちなく笑う穂花に、隆二が「もう少しこっち」と軽く手を添える。
パシャ。画面に写ったのは、紫陽花に囲まれた穂花の、少し照れた笑顔だった。
「次は俺の番かな」
「じゃ、私が撮ります」
穂花もスマホを構えたそのとき、近くで自撮りに苦戦していたカップルの女性が声をかけてきた。
「すみません、お二人ってご一緒ですか? よかったら、写真撮り合いません?」
「え、あ……はい、いいですよ」
穂花は少し戸惑いながらも頷き、女性からスマホを受け取って、彼女とその彼氏を紫陽花の前で撮ってあげた。
「ありがとうございます! じゃあ今度は、私が撮りますね」
女性が穂花のスマホを受け取り、二人が並ぶよう促してくれる。
咲き誇る紫陽花の中、少し距離をとって立った穂花に、隆二がそっと寄る。
カシャ。数枚撮ってもらい、にこやかにお礼を言ってスマホを受け取った。
画面には、紫陽花に囲まれて並ぶ二人の笑顔。
穂花は、自然と頬が緩むのを感じた。
――いつの間に、こんなふうに一緒に笑えるようになったんだろう。
ふいに、夏希の写真を思い出す。
薔薇園で、満開の薔薇に囲まれて笑っていた、彼女と秀樹の姿。
あのときは、ただうらやましくて、自分には遠い世界だと思っていた。
でも今、こうして紫陽花の中にいる自分も、隆二と並んで笑っている。
花の色は違っても、心に咲いているものは、きっと――同じ。
◇◇
道沿いの小さな竹林を抜けていく。
風に揺れる笹の葉の音が、心地よいBGMのように耳に広がる。
「ここ、来てよかったですね」
「うん。穂花さんと来られて、よかった」
その一言に、穂花の胸がふわっと温かくなった。